消費者と対話する場を、SNSからコミュニティサイトへと切り替える企業が増えている。会員を活性化し、データを収集・分析して商品開発、販促につなげる最前線を追う。
コミュニティサイトの会員は、小売りなどリアルの流通で自社商品を購入する金額が、非会員と比較して24%も高い──。
森永製菓が運営するコミュニティサイト「エンゼルPLUS」を舞台に、こんな結果が明らかになった。企業が運営するコミュニティサイトは消費者との交流の場であり、直接的な売り上げ貢献は指標になりづらい。従来はそう言われることもあった。だが、森永製菓の事例は、コミュニティサイトが売り上げ増加に寄与できることをデータに基づいて示している。
企業と消費者、あるいは消費者同士が対話できる“場”として、「コミュニティサイト」を開設する企業が相次いでいる。4月にカゴメが食やレシピについて消費者と意見を交わす「&KAGOME」を開設したほか、6月にLIXIL住生活ソリューションが「HOMEPAD」を、10月にはヤマサ醤油が「ハッピーレシピ部」を開設した(下表)。消費者の間でソーシャルメディアの利用が広がる中、多くの企業はこれまで、消費者と直接対話できる場として、公式アカウントなどを設けてきた。なのになぜ今、自社コミュニティサイトを始める企業が増えているのか。それには2つの理由があると考えられる。

まず、最も大きい理由はデータの収集・蓄積だ。Facebook上でファンを集めて交流を深めても、どんなコンテンツにファンが「いいね!」をしたのか。投稿がどんな層に反響があったのか。交流から得られるデータはFacebookに蓄積されていく仕組みなので、分析はそもそもしづらい。本来なら、自社のページのファンになるような消費者との交流は、マーケティングデータとして極めて重要。そこで、こうしたデータをきちんと自社に蓄積し、マーケティング施策に生かす手段として、コミュニティサイトに注目が集まっている。従来とは異なり、データの取得・蓄積を主眼とする、データ・ドリブンなコミュニティである。
もう1つの理由は、プラットフォーム側の変化だ。Facebook利用者の拡大による投稿されるコンテンツの増加や、Facebook自身によるアルゴリズム変更などによって、企業の投稿はファンに届きづらくなっており、単なるページ運営では交流すら難しくなっているわけだ。こうした理由から、自社でもコミュニティサイトを持ち、そこで集めたデータを解析して、マーケティングに生かそうという機運が高まっているのだ。
冒頭で紹介した森永製菓は、まさしくFacebookでのデータ取得に限界を感じて、消費者との交流の場を自社コミュニティへと移した1社だ。
優良顧客を判別する森永製菓
森永製菓が運営するエンゼルPLUSは、企業だけでなく会員も、テーマを立てて他の会員と意見を交換できる掲示板や、森永製菓製品などに対するアンケートを実施する投票、キャンペーンなどのコンテンツを持つ。

同サイトを始めたきっかけを森永製菓のマーケティング本部広告部デジタルコミュニケーション担当の岩崎育夫氏はこう振り返る。
「ソーシャルメディアを始めたことで、消費者から直接顧客としての声を得ることがマーケティング上、重要だと気付いた。しかし、ソーシャルメディアのページを運営するにつれ、取れるデータが不十分でファン層が見えづらいことが分かってきた。また、あまり露骨にアンケートを取ろうとしても反感を買ってしまう上にデータとしても蓄積しづらいといった課題も見え始めてきた」
そこで、ソーシャルメディア上のファンをより具体的に可視化し、コミュニケーションを取って、優良な顧客を増やすことを目的にエンゼルPLUSを開設した。自社のサイト上に設置するため、会員属性や取得したアンケート結果、コミュニケーションで得られたデータはすべて、自社に蓄積されるようになった。そうしたデータをマーケティングに生かしていくことを目指した。
とはいえ、会員がコミュニティを積極的に利用しないことには、掲示板への投稿数や、アンケートへの回答率は高まらない。エンゼルPLUSでは、コメントを投稿したり、ログインしたりすることで貯まるポイントを用意。ポイントを貯めるとキャンペーンに参加できるようにして、日々の利用を促している。
さらに、毎月、掲示板で最も盛り上がったテーマを立てた会員を選出する「盛り上がった賞」や、新規会員の中から最もコメントを集めた会員を選出する「ルーキー賞」などを設けて表彰することで、会員のモチベーションを高め、活性化を図っている。
優良会員をサポーターに
この会員活性化策を進化させたのが、5月から始めた「エンゼルサポーター」募集企画だ。これは、会員の中からサポーターとして、森永製菓の商品を使ったレシピを考案してくれる「お菓子レシピ隊」と、森永製菓の商品と相性の良い飲み物を探す「お菓子コーディネート隊」を各3人ずつ選ぶ企画。応募はエンゼルPLUS上のポイントを5000以上保有している会員に限った。サポーターからはレシピや飲み合わせを募集し、ブログで紹介している。
エンゼルPLUSには現在、約6万人の会員が登録しているが、プレゼントキャンペーンで集めた会員も多い。最初は懸賞目当てで登録した人をいかにアクティブにするか。それがコミュニティ運営の肝になる。そこで、「選ばれた会員、いわばあこがれのような存在を作ることで、アクティブ率を高めたいと考えた」と岩崎氏は企画の狙いを語る。
このようにして、会員を活性化させた上で、コミュニティサイト上のデータをマーケティングや営業に活用している。例えば、「掲示板に投稿された商品に対する会員の意見をテキストマイニング技術で抽出して、POPに掲載して店舗での販促に使うケースがある」(岩崎氏)。
また、商品や商品を食べるシチュエーションなどについて、随時アンケートを実施している。アンケートの依頼は商品開発部門や営業部門など、さまざまな部門から寄せられる。例えば、「運動会にはどういったお菓子を持っていくか」といったアンケートを実施して、集まった会員の声を商談資料に利用しているという。また、会員の購買データの取得にも取り組んでいる。森永製菓は4月28日~5月12日にかけて、会員から4月1日~5月12日の期間中に森永製菓の商品を購入した際のレシートを投稿してもらうキャンペーンを実施。同時にスマートフォン向けレシート管理アプリ「Dr.Wallet」でも同様のキャンペーンを展開した。これにより、会員と一般消費者の森永製菓商品の購入金額を比較することを狙った。
結果を見ると会員の方が金額で24%高かった。また、Dr.Walletの利用者はキャンペーン参加に合わせて一時的に森永製菓商品を購入したためか、「キャンペーン参加者のその後の購買傾向を見ると、明らかに森永製菓商品の購入金額が低下する」(岩崎氏)。この事実から、コミュニティサイトを通じて、優良顧客を醸成できていることが明らかになった。
