日経BP社は、デジタルマーケティングの最前線を体感できるカンファレンス「Digital Marketing Conference 2016 Autumn」を、11月8~9日に東京・大崎で開催した。初日の基調講演に登壇したバルミューダ代表取締役の寺尾玄氏は「モノより体験を売るという事」をテーマに熱く語った。

体験価値について語るバルミューダ代表取締役の寺尾玄氏
体験価値について語るバルミューダ代表取締役の寺尾玄氏

 バルミューダは昨年発売したトースター「BALMUDA The Toaster」を企画したときから、商品企画やマーケティング活動において「モノより体験」を重視するようになったと寺尾氏は言う。

 トースターの年間販売台数は約200万台。しかし扇風機同様に技術革新もなく、市場は数千円のもので占められていた。そこに同社は約2万5000円もする製品を送り込んだ。

 「そういった市場にこそチャンスがある。技術によってトーストはもっとおいしく焼けると思っていた。調理はすべて化学反応。数字で追い込める。褐色になるメイラード反応はトーストの場合、150~160度でしか起きない。そしてその先の炭化は220度から起きる。スチームと温度制御によって最高の香りと触感を実現するトースターができた。ただし、2万5000円のトースターが欲しいかと問われれば、私も欲しくない(笑)。でも最高のトーストが焼けるトースターだと言われれば、人はどう思うのか。それがもっとも大切なこと」

 発売以来、約1年半でトースターの出荷台数は20万台を超え、昨年は約29億円だった売り上げが、今年は50億円を優に超える見込みという。そして最後にこれからのマーケティングのあり方について持論を述べた。

 「すべての商品は、数字で測れる科学的側面と感覚的で数値化できない芸術的側面がある。誰もが洗濯機を持つ時代に、新しい洗濯機を買ってもらうために何が必要か。性能、価格といった前者の要素だけではもはや勝ち残れない。人はどんなに安いものでも、最後には芸術的側面でモノを選ぶ。これほど多様性が叫ばれる時代であっても、7割の人がいいと言ってくれるようなものはあるはず。その芸術的側面にこそ目指すべきゴールがある」

ヘッダー入札の効果は高い

 続けて8日午後、日本気象協会事業本部メディア・コンシューマ事業部コンシューマ事業課営業マネージャー/ALiNKインターネット代表取締役社長の池田洋人氏が登壇した。日本気象協会とALiNKインターネットの両者が共同で運営する天気予報専門サイトが「tenki.jp」だ。Webサイト、アプリを通じて無料で発信されており、年間ページビュー(PV)数は約25億PV、ツイッターの公式アカウントにも220万超のフォロワーがおり、気象予報サイトとしては「Yahoo!天気」に次ぐ人気サイトとなっている。

日本気象協会事業本部メディア・コンシューマ 事業部コンシューマ事業課営業マネージャー/ ALiNK インターネット代表取締役社長の池田洋人氏
日本気象協会事業本部メディア・コンシューマ 事業部コンシューマ事業課営業マネージャー/ ALiNK インターネット代表取締役社長の池田洋人氏

 「tenki.jp」は今年3月、日本で初めてヘッダー入札の仕組みを導入した。現在の国内媒体の広告取引は、アドサーバー内を純広告やアドネットワーク、SSP(サプライ・サイド・プラットフォーム) などの形式ごとに優先順位を付けて運用するのが主流。この運用方法では、最も高い価格の広告を配信する機会を損失し、媒体社の広告収益の拡大を妨げる可能性がある。これを解決する最新のソリューションがヘッダー入札だ。媒体のページのヘッダー部分に専用タグを埋め込み、アドサーバーを読み込む前に高価格の広告売買を成立させる。媒体社は広告のCPM(インプレッション単価)が向上し、広告収益の最大化を図れるという。

 また、収益向上以外にも副次的な効果が得られたという。それは「グーグルのADX(アドエクスチェンジ)の入札分布状況が見えるようになったこと」(池田氏)だ。100円、110円、120円といった広告のレンジがある中で、どのレンジでどれくらい入札があるのかが可視化される。ヘッダー入札にはkeyValueという仕組みがあり、これを活用することで実現できるという。「ある一定のところで入札が増えている状況などが分かるため、このレンジを強化しようといった対策が立てやすい。知見もたまるし、そういう意味で思いの外、効果がある」と池田氏は話す。

 実際、tenki.jpではヘッダー入札の有無でテストを実施。その結果、ヘッダー入札ありのほうが、入札収益とADX収益を合わせて約20%増という好結果を得られたという。

 最後に池田氏は、最近、グーグルが公開した「Fluid」の効果について触れた。これは“流体”という意味をもち、ネイティブ広告として、画面に応じてサイズが可変するものだ。tenki.jpではこのFluidへ対応した結果、数カ月で売り上げが前年同期比で約120%伸びたといい、Fluidの対応は今後ぜひ取り組むべき課題だと池田氏は強調した。