複数の動画広告が視聴者の態度変容に及ぼす効果をリアルタイムに分析。その数値を見ながら、より効果の高い動画広告の広告費を厚くするなどして広告予算の最適化を図り、広告全体の効果を最大化する──。
コーセーは化粧品ブランド「雪肌精」の新商品「ホワイトクリームウォッシュ」のキャンペーンにおいて、こうした施策に取り組んだ。その結果、広告予算の最適化を図る前と、キャンペーン期間通期で比較した場合、通期のほうが商品認知の項目で4ポイント高まり、購買意向の項目も0.4ポイント増とわずかながら上昇した。

コーセーの取り組みは、複数の広告クリエイティブを同時に配信して、その効果を比較するABテストと呼ばれる施策の一環だ。従来と異なるのは、最適化を施す際に参照する指標である。これまでもコーセーは、動画広告のABテストに取り組んできた。その際、完全視聴率やクリック率を測り、最適化を施してきた。ネット広告においては一般的な指標だが、ブランド広告を手掛けるコーセーとしては、そうした指標で最適化を施すことに、やや疑問も残っていた。
ブランド広告主の多くは、購買意向の向上といった態度変容を促すことを目的に動画広告を活用する。ところが、「従来のクリック率などの効果指標では、広告を閲覧した人が商品を購入したいという気持ちになったかどうかは分からない」(コーセー宣伝部宣伝企画・PR課小林祐樹氏)からだ。
より本来の目的に近い指標で広告効果を分析しながら、最適化を施す。これを実現する上でコーセーは、複数の動画広告を配信しながら、並行して広告閲覧者に対して商品認知や購買意向に関するアンケート調査を実施。調査からより効果の高いクリエイティブを割り出して、予算を絞り込む施策に取り組んだ。施策の実施には、広告配信と調査を併せて実施できるマイクロアドの「LinX(リンクス)」を活用した。
購買意向の高い広告に一本化
比較のために用意した動画広告のクリエイティブは、テレビCMを基にしたもの。一方は、女優の新垣結衣さんを起用したテレビCMをそのまま動画広告とした。もう一方は、テレビCMの再生前に新垣さんが「この動画を見てください」と視聴者に語りかけるパートを設けたWeb専用の動画広告だ。
広告は2段階に分けて配信した。まず7月12~27日にかけて、2つの動画広告を配信した。また、対象期間中に動画広告に接触した人を対象に、動画広告に関するアンケートへの参加を促すディスプレイ広告を別途、リターゲティング広告として配信。アンケートでは商品認知や購買意向、広告に対する印象などを尋ねた。今回の施策では、クリエイティブ最適化までのスピードを重視して、通常よりも短期間でアンケートを回収した。そのため、回答件数は推奨値より若干少なかったものの、効果の傾向は把握できると判断して分析に当たった。
そのアンケートの回答から、商品認知と購買意向の大きく2つの軸で、広告効果を比較した。その結果、商品認知の項目はテレビCMを広告として配信した動画広告に軍配が上がったものの、購買意向の項目はWeb専用の動画広告が上回った。この結果に小林氏は「悩んだものの、購買意向が高まったWeb専用動画に予算を寄せることを決断」。7月28日~8月8日にかけては、Web専用の動画広告に予算を絞って配信した。これにより、最適化前と比較して、キャンペーン期間の通期では商品認知、購買意向ともに上昇させる成果につながった。
小林氏は「動画広告やディスプレイ広告の出稿量と、売り上げの相関関係を分析できるのが理想的。ただ、現状それはかなわないため、今回の施策のように可能な範囲で売り上げに近しい指標で最適化を進めたい」と言う。今後も継続して、本件のような取り組みを続ける方針だ。