大手流通企業を中心に、リアル店舗とネットを結びつけて新しい売り方を模索する「オムニチャネル」という概念が浸透した。オムニチャネルを推進する上では在庫情報や会員データの統合や、店舗情報を発信するためのアプリ開発など、システムへの投資が必要となる。また、推進する人材も必要だ。そのため、中堅中小企業にとっては未だ対応へのハードルが高いのではなかろうか。

  セブン&アイ・ホールディングス傘下で、高級食材のスーパー「ザ・ガーデン自由が丘」をチェーン展開するシェルガーデン(東京都千代田区)も、グループ全体で進むオムニチャネル化の一環として、2年前に新たにオムニチャネル担当を設けた。ネット通販については、グループ横断型のEC(電子商取引)サイト「オムニ7」上で商品を展開している。一方で、店舗情報の発信という面では、人材不足や開発コストなどの面から、後手に回っていた。「自社のWebサイト程度しかなく、店舗のお薦め商品情報なども発信できていなかった」(総務部情報システム担当の浅野貴宏氏)。

 そこへスマートフォンの利用が顧客層に急速に浸透し、新しい情報発信のチャネル開拓の重要性が高まった。そこで一部店舗では、スマートフォン向け無料通話・メールアプリ「LINE」利用者向けに情報を発信できる、中小企業向けマーケティングサービス「LINE@」を導入。店内にポスターを貼るなどして登録を促したが、なかなか登録者が増えず、ファン数は1000人未満にとどまっていたという。

 その要因は「店舗発ではなく、本部発での情報発信だったためではないか」と浅野氏は見る。最寄りの店舗の商品情報を深掘りできるといったことを顧客にうたえないため、関心を引きづらかったのだろう。本部が主導した理由は、メールマガジンの制作経験などのない店舗の店員では、LINEで送るメッセージの作成などに手間取る可能性を危惧したためだ。

ほうじ茶の販売数が2.6倍に

 顧客に対して各店舗発で情報を発信、かつ複雑な操作を必要としない仕組み──。これを実現するためにシェルガーデンが導入したのが、ネットイヤーグループの提供する店舗アプリ開発サービス「ぽぷろう」だ。このサービスは店舗情報を発信する顧客向けスマートフォン向けアプリを店舗単位で作れるもの。利用顧客は店舗発のお買い得商品やお薦め商品といった情報、クーポンなどを受け取れる。

ぽぷろうで制作したスマートフォン向けアプリ
ぽぷろうで制作したスマートフォン向けアプリ

 店舗はスマートフォンで利用できる管理機能を使って、送りたい商品の写真を撮り、写真のフレームやスタンプなどでデコレーションする。これだけでデジタル版のPOPと言える画像を配信できる。シェルガーデンでは、生鮮品などが豊富で情報を発信する商品が多い神奈川・東戸塚店と、旗艦店の東京・池袋店に導入して情報発信を開始。東戸塚店ではこれに合わせて、LINE@の利用を止めた。

 店舗にポスターを貼ってダウンロードを促進したほか、店舗からお薦め商品などの情報を直接受け取れるといった有益性を店員からも伝えて、利用を促した。「アプリでは店舗色か色濃くでる。そこに関心が高い顧客が多い」(浅野氏)ことから、提供後1カ月で1000件以上ダウンロードされてLINE@のファン数を抜いた。現在は東戸塚店で約2000人が利用している。

 また、シェルガーデンではアプリの売り上げ貢献度の検証にも取り組んだ。2月8日~3月4日にかけて、価格は高くても品質などの面からお薦めできる商品を11品選び、該当商品を数個含めて毎日、情報配信した。そして、配信後にPOS(販売時点情報管理)システムのデータから、配信前後の同期間での売り上げの変化を比較したところ、10品の売り上げが増加していた。

 中でも、「一保堂 極上ほうじ茶」は、価格や展開する商品棚などには全く手を加えていないにもかかわらず、販売数は2.6倍と大幅増となった。「手を伸ばしづらい商品でも、情報を発信することで関心をひいた可能性が高い。それが数値にも表れている」と浅野氏は言う。小さな成功かもしれないが、確実に成果が出始めている。