日経BPは、関西初のマーケティングイベント「Digital Marketing Conference 2015 OSAKA」を、11月5~6日にグランフロント大阪で開催した。初日は「デジタルブランディング」、2日目は「デジタルコマース」という最新のトレンドを把握できるとあって、熱心な聴講者が会場に足を運んだ。

アクサ生命保険取締役専務執行役兼チーフ・マーケティング・オフィサーの松田貴夫氏
アクサ生命保険取締役専務執行役兼チーフ・マーケティング・オフィサーの松田貴夫氏

 初日の基調講演に登壇したのは、アクサ生命保険取締役専務執行役兼チーフ・マーケティング・オフィサーの松田貴夫氏である。松田氏は「150年間、保険業界はビジネスモデルが変わらなかった。ビッグデータなどデジタル化の波により、今後10年間で保険業界のビジネスモデル、そしてブランディングやお客さまとの接点がガラリと変わる可能性がある」と言い切った。

 これまで保険会社は、ビジネスモデルが同じなため、健全性や価格で選別されてきたという。しかし「これからは違う」と松田氏。今の顧客は保険商品を選ぶ際、ソーシャルメディア上のコメントや満足度を参考にする人が48%に上るからだ。しかもそれらのコメントはシェアされる。このような時代におけるブランディングのポイントは、「お客さまの経験になることをどんどん立ち上げ、シェアしてもらうこと。つまりデジタルによる新しい顧客体験の創出と多様なタッチポイントの提供。このような方向に変えていく必要性がある」と松田氏は言う。

 そのため、アクサ生命はさまざまな会社と連携し、新しい顧客体験の創出とタッチポイントの提供に取り組んでいる。自分にぴったりな健康習慣を勧めてくれるスマートフォン向けアプリ「HealthU」の提供はその一例。ヘルスケア・コミッティーの生活習慣病予防ソリューション「QUPiO」との提携により実現した。

 もちろん新しい取り組みを進めるには、社員の意識も変えなければならない。アクサ生命では、デジタルイノベーションを促進するための社内コンテストを実施。今後もデジタルコンテンツを中心に、新しい顧客体験を創出できる多様なタッチングポイントの提供に取り組んでいく。

データドリブンマーケティング推進

「2020年にはデジタルネイティブが50%を超える。だからこそ今、デジタル時代のマーケティングを考えなければならない」

日本IBMコミュニケーション&ブランドエクスペリエンス部長の山口有希子氏
日本IBMコミュニケーション&ブランドエクスペリエンス部長の山口有希子氏

 日本IBMコミュニケーション&ブランドエクスペリエンス部長の山口有希子氏はこう語り、「デジタル時代におけるグローバルカンパニーのブランディング戦略」と題したセッションを、初日13時に開始した。

 世界中のマーケティング担当者が集まるIBMの会議でも、今年の方向性は「Branding in Digital World」。つまりデジタル時代におけるブランディングをどう作るかだったという。というのも、パソコン事業などを売却してきた結果、一般の消費者がIBMのロゴを見る機会は以前と比べて減っているからだ。そこでIBMでは、「データドリブンマーケティング」をテーマに掲げた20個のプロジェクトを実施し、新しいマーケティングの形を模索している。

 例えば、Web改善プロジェクトもその一つだ。営業やコールセンターなどの関係者を交えてクライアント・ジャーニー・プランニングを行い、6カ月かけて構築したところ、アクセス数が従来の7.6倍、回遊数が5.8倍、問い合わせ数が35.5倍に増加したという。

 このような新しいマーケティングを実践するには、「ポートフォリオマーケティングマネージャー、コンテンツマーケティングマネージャーなどの新しい人材が必要。トレーニングコースを設けて教育している」と山口氏。人材育成の努力に加え、マーケティング部門とIT部門のメンバーが集まり、週1回、定例ミーティングも実施。IT、デザイナー、マーケッターなどの各部門から選出されたコアメンバーと外部エージェンシーで構成されるマーケティングラボも設置した。マーケティングとITを確実に連携させて成果を出すための、新しい組織的な試みだ。

 「デジタルを駆使してさまざまな情報を獲得し、お客さまが求めるエンゲージメントを提供できるよう、私たちはいろいろな挑戦をしていかねばならない」と山口氏は強調する。

直販サイトで消費者との関係を強化

 「メーカーはこれまで流通との強固な関係を築くことに注力してきたが、今後はそれに加えて消費者との関係の強化が大事になる」

 直販サイトで成功したリンナイ管理本部eビジネス推進室室長の福本啓史氏は、2日目の午後のセッションに登壇し、こう語りかけた。

リンナイ管理本部eビジネス推進室室長の福本啓史氏
リンナイ管理本部eビジネス推進室室長の福本啓史氏

 メーカーのEC(電子商取引)サイトで成功している事例は少ない中、同社ではECサイトを使ってさまざまな試みを実施し、顧客関係を構築している。2006年10月に開設した交換部品販売サイト「リンナイスタイル(R.STYLE)」の運営はその代表例だ。

 交換部品の売り上げ全体に占めるECの比率は年間19%。「大掃除の時期となる12月単月で見ると25%に達するときもある」と福本氏は説明する。このサイトを開設したことで、「交換部品がどこで売っているか分からない」という消費者の悩みと、「交換部品の取り扱いは単価が低く、手間もかかるので本音は取り扱いたくない」という流通小売業の悩みの双方を同時に解決。両者の顧客満足度の向上に貢献している。

 顧客関係構築だけでなく、売り上げ拡大のための仕組みも用意した。清掃用品やお手入れグッズの販売などコンテンツの拡充に努めているのに加え、行動履歴データなどを活用し、一人ひとりに合ったメールを配信。売り上げにつなげているという。

 さらに、直販サイトを商品開発の場としても活用している。業界の常識ではあり得ない白いコンロ「HOWARO」は、直販サイトだからこそ生まれた商品だ。直接届く購入者の声を基に改良を繰り返した結果、現在の真っ白なコンロに至った。

 メーカーが直販サイトを運営するメリットは「消費者の声を直接集め、その声を参考に商品やサービスを改善できること。ECサイトは10年後も顧客にリンナイを選んでもらうための仕掛け」と福本氏は言い切る。

 最後に、メーカーながらECサイトの運営が成功した理由として、「社内の理解を高めたことも要因」と福本氏は語る。例えば社員販売サイトの新設やECを象徴する新キャラクターの展開などを推し進め、ECサイトと全社員との接点を増やし、理解を得たという。「ECサイトというと消費者との関係づくりに目が行きがちだが、社内の連携も大事。これができないとメーカーのECサイトはうまくいかない」。見逃されがちなポイントを指摘し、福本氏はセッションを締めた。