11月2日に開催した本誌読者セミナー「テレビはマーケティングに使えるのか?」の模様をレポートする。テレビという巨大なリーチメディアをどう生かすことが正解なのか。資生堂、KDDIなどのキーパーソンが議論した。

 基調講演に続いて、「テレビCMとネット広告どう使い分けるか」をテーマとするパネルディスカッションを実施した。パネラーは資生堂ジャパンのコミュニケーション統括部長の小出誠氏のほか、人気CM「三太郎シリーズ」を担当するKDDIコミュニケーション本部の矢野絹子宣伝部長、HAROiDの安藤聖泰代表取締役の3人。司会はコピーライター/メディアコンサルタントの境治氏が務めた。

左から、パネルディスカッションの司会を努めたコピーライター/メディアコンサルタントの境治氏、パネラーの資生堂ジャパンの小出誠コミュニケーション統括部長、KDDIコミュニケーション本部の矢野絹子宣伝部長、HAROiDの安藤聖泰代表取締役
左から、パネルディスカッションの司会を努めたコピーライター/メディアコンサルタントの境治氏、パネラーの資生堂ジャパンの小出誠コミュニケーション統括部長、KDDIコミュニケーション本部の矢野絹子宣伝部長、HAROiDの安藤聖泰代表取締役

 矢野氏は、ネットとテレビを組み合わせた取り組みを複数展開し、リーチ拡大、話題化・拡散、体験価値の向上に取り組んでいるところだと話す。

 その話題化・拡散を狙った施策の一例は、三太郎のCMに一寸法師を小さく写り込ませたこと。実は「この仕掛けを広報する前に視聴者に気付かれてしまった」そうだが、「気付いた人がソーシャルでつぶやき、一気に拡散した」。そして安藤氏と共に企画したBSジャパンのテレビ番組「流星放送局~ふたご座流星群LIVE~」の例も紹介した。

 ふたご座流星群が見ごろとなる2016年12月13日に放送された同番組は、スマホの特設サイトで受け付けた願い事を、音楽ライブ放送中に流れ星のように流すという企画だ。「テレビとスマホとを連動させたことで、見ている人の体験価値を向上できた」と矢野氏。

 同番組で願い事をした人は4万人。この人数をどう捉えるかは難しいところだが、境氏は、「こういうことができるのも、テレビの力だ」と評価した。矢野氏も、「今後も最初からデジタルとテレビが連動するような企画にチャレンジしていきたい」と意気込んだ。

 ネット広告が浸透するにつれ、テレビCMをマーケティングに使う場合に、最大の課題となりつつあるのが、「成果がわかりにくいこと」(境氏)。ネット広告の場合は、誰がどういうルートでアクセスしたか、最終的にコンバージョンにつながったかなどを追うことができる。一方、テレビCMは何で判断すればよいのか。

 CM視聴率という指標もあるが、現在はさまざまな意味で、変革期にある。スイッチ・メディア・ラボなど、デジタルを加味するなどした新たな視聴データを提供する会社が増えているからだ。

視聴質データから見えてきたもの

 スイッチ・メディア・ラボのツールを使えば、視聴行動のトラッキングができるという。固定ファンが視聴率を支えていると思われがちな連続ドラマでも、1回だけ見る人が多いことがわかったりする。

 境氏はTVISION INSIGHTSが発表したテレビ番組視聴質ランキングを提示し、「ここからも面白い発見がある」と話した。

 一般的な視聴率ランキングとは異なり、上位に入っているのは大河ドラマや土曜の時代ドラマなどNHKの番組が多かった。そして、意外にもトップ20位の中にテレビ東京のバラエティー番組が複数、入っていたのである。

 境氏は、「こういう(テレビの)見方もあるということだろう。提供枠を選ぶときは、いろんなデータを組み合わせて分析することが必要になるのでは」と問いかけた。

 矢野氏もそれに応え、「これまで放送枠を、こういう視点でなかなか見られていなかった。これからはさまざまなデータを掛け合わせて、提供枠を選んでいきたいと思った」と微笑んだ。

 そして、「どんなデータが取得できれば良いのか」という境氏の問いに、矢野氏はこう答えた。「スマートフォンは(資生堂が扱う)化粧品などと比べると若年層から年配層までとターゲットが広い。だからCMは、我々のブランドを蓄積していく活動だと思っている。そこでTVISION INSIGHTSのような新しいツールを使って、テレビのCMによって、当社のブランドがどれだけ浸透したかを分析したい」。実際、TVISION INSIGHTSのような仕組みが浸透すると、画面の前に座っている人の性別、年代、家族構成などが把握でき、テレビCMを通じてのターゲティング精度が高まる可能性がある。

 テレビをマーケティングに活用して成果を出す方法は、視聴率をいろいろな角度から分析して、ターゲットにあった提供枠を選定することだけではない。インターネットとの連動もその1つだ。そのためのさまざまなソリューション提供に取り組んでいるのが、安藤氏率いるHAROiDである。

 安藤氏は、「テレビCMには圧倒的なリーチ力がある。だが、最終的に購入などの行動に結びつける、つまりテレビを通じた興味喚起を行動につなげる仕組みが必要になる。それを実現するのがインターネットの力だ」と話す。

 その一例が、同社のソリューション「O2O2O」を活用したリアルタイムで視聴者が参加できるテレビCM。今年6月にキリンが実施した、「のどごしスペシャルタイム」がもらえるキャンペーンでは、「参加者の8割をコンビニエンスストアなどの店舗に誘導できた。その結果、商品体験機会の創出に加え、流通にとっても有効な施策になった」。

 境氏は、「HAROiDはテレビとデジタルの間を埋めるチャレンジをしている」と指摘した。

 AbemaTVなど、インターネット上に生まれたメディアのマーケティング活用ついても議論が広がった。

 境氏は、「動画で攻めるという方法論がこの先も通じるのか。AbemaTVは、その試金石になる」と語る。矢野氏は、「スマホで見るメディアは、私たち広告主にとって、広告の入れ方が難しい」と本音を吐露。小出氏もスマホ上の広告について、「ユーザー体験を妨げないよう、私たち広告主もメディアも広告の出し方を追求していかなければならない」と話した。

動画の未来はどうなるか

 最後に境氏は、これからのテレビとデジタルコンテンツのマーケティング活用について、3人に質問した。

 安藤氏は、「これからの視聴者は常にテレビとインターネットネットにつながっている。広告主もテレビとネットに広告を出す。それらをうまく組み合わせ、その人に合ったコンテンツをどう提供していくかが大事になる」と話した。矢野氏は、「テレビCMもデジタル広告も、よりワン・トゥー・ワンになっていく。お客さまを一人と見たときに、この人にはどんなタイミングで、どういう情報を、どういうシナリオで出していくのか、それが求められていくようになる。嫌じゃない形で伝えるには、広告もコンテンツ力を持たないといけない。楽しんでもらいながら、有益だと思って頂きながら伝えていくことをテレビとネットを越えて伝えていきたい」と語った。

 小出氏は、「私もパーソナライズがキーワードだと考える。その人にどう届けていくか。広告主はしんどい時代になっていくが、既存のメディア業界の外から参入するプレイヤーなど、いろんなサービスが登場している。それらをキャッチアップして自分のブランドとマッチさせていく。そういう力量がマーケティング人材には必要になるだろう」と続けた。

 1時間半に及ぶパネルディスカッションはこうして終了した。テレビとネットとは互いに補完する存在であり、データ活用によるパーソナライズ化に欠かせない両輪。そうした事実が明らかになった価値あるパネルディスカッションだった。

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