11月2日に開催した本誌読者セミナー「テレビはマーケティングに使えるのか?」の模様をレポートする。テレビという巨大なリーチメディアをどう生かすことが正解なのか。資生堂、KDDIなどのキーパーソンが議論した。
日経デジタルマーケティング読者セミナー「テレビはマーケティングに使えるのか?」は基調講演とパネルディスカッションの2本立て。まず資生堂ジャパンの小出誠コミュニケーション統括部長が登壇し、「デジタルメディア時代の『テレビ』を考える」というテーマで講演した。
小出氏は80年代後半より広告宣伝などに関わり、経営企画部などを経て、2014年から現職に就いている。コミュニケーション統括部は、「マスやデジタルのペイドメディアのプランニングやバイイング、女性誌PR、タイアップ、デジタル領域をメーンとした各ブランドの戦略プランニングをサポートする部署」である。
小出氏は大型スクリーンに、リアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率、そしてテレビ行為者率のグラフを提示し、「生活者にとってテレビのあり方は大きく変わりつつある」と指摘した。リアルタイム視聴率は右肩下がり。タイムシフト視聴率もリアルタイム視聴率と同じような傾向だったが、テレビ行為者率を見ると、休日にまとめて録画したものを見る人が全年代で増えていた。「リアルタイム視聴率での評価の限界が見えてきた」と小出氏。
投資対効果が厳しく問われる時代
現在、動画コンテンツを視聴するツールはテレビ、スマートフォン(スマホ)、パソコンに三分され、Google、Apple、Amazonなどのデジタル系企業も動画にアプローチしている。
そうした状況を踏まえて小出氏は、「テレビはもはやテレビ局が放送するテレビ番組をテレビ受像機の前で放送時間に見るものではなくなってきた」という。
そして、テレビに対する捉え方はマーケターの側でも変わりつつある。「かつてと違って、(テレビCMの)効果検証について厳しく問われるようになった」。その背景にあるのが、マーケティング施策における損益管理意識の高まりだ。デジタルマーケティングやビッグデータ分析が普及してきたことにより、個々のマーケティング施策のROI(投資対効果)向上を追求するブランドマネジャーなどが増えている。
「さまざまな視聴データが充実してきたことも大いに関係しているのだろう」
今ではリアルタイム視聴だけでなく、録画視聴率、視聴者の性年代、ライフスタイル、生活価値観のほか、画面注視度など、生活者の動きを把握し、効果を可視化できるデータが多く存在している。
ではマーケティングにおいて、テレビというツールは、どう活用していけば良いのか。
例えば、TVISION INSIGHTS(東京都港区)では、テレビがオンになっている時に、テレビの前にどれぐらい人がいるか、その人がどのくらいテレビを注視しているかを測定した指標である「視聴質データ」を提供している。これを使うと、「朝帯は注視度が低く、土日は全般に注視度が高い」など、新たな発見があるという。
スイッチ・メディア・ラボ(東京都港区)は時間帯別や番組別でのCM視聴データを提供。ブランドターゲットのオリジナル属性視聴率分析ができる。
「通常の視聴率ではわからなかった、CMゾーンの価値がわかるようになった」
同社提供の番組に日本テレビ系で毎週日曜日22時から放送されている「おしゃれイズム」がある。同番組の視聴率は10~10数%。「会社の中では基本的に資生堂ファンが見ていてリーチが広がらないんだろうと言われていたが、スイッチ・メディア・ラボのツールを活用することで、3割ぐらいは放送回ごとに入れ替わることがわかった」。
また、性別、世帯年収、職業、メイクアップ道具の購入場所などが把握でき、視聴者像がより明確になったという。
ターゲットの1割にしか届かない
テレビにはリーチ獲得、到達速度の早さという長所がある。しかし、視聴率が高いと言われるバラエティー番組や音楽番組、スポーツ番組などに広告を出しても、「私たちが届けたいターゲットの割合は1割以下。そこでテレビをセグメントメディア化することを考えた」と小出氏は語る。
現在のテレビでは、リーチできない層と過剰フリークエンシーになる層とが存在する。テレビとデジタルとを統合管理することで、ターゲットアプローチを効率化しようとした。その試みの1つが、CM開始3日後にWebアンケートを実施し、エリア・性年代別に広告認知率を把握。5日後に認知率が低いエリア、年代を対象にデジタル広告で補完する施策である。これにより、「広告認知が上昇した」。
小出氏は、「生活者が求めているパーソナライズされた情報を提供するためにも、既存メディア業界は、現状のメディアの境界に囚われない発想が求められる」と語り、基調講演を締めくくった。