「Gunosy」「SmartNews」「NewsPicks」などが成長を遂げているキュレーション型ニュースメディアに10月19日、異色のニューフェイス「Kindai Picks」が登場した。11月4日時点の人気記事ランキングのトップは、産経ニュース大阪版「産経WEST」発の記事「来春も近大入学式、つんく♂さんがプロデュース」。他記事に目を向けると、昨年秋に「日経ビジネスオンライン」に載った近畿大学水産研究所所長の取材記事もあった。その名のとおり、近畿大学に関するマスメディアやWebニュースメディアの記事を集約して元記事にリンクを張ったニュースまとめサイトである。スクールカラーである藍色の配色と構成がNewsPicksをイメージさせる。

近畿大学が運営するキュレーションサイト「<a href="http://kindaipicks.com/" target=_blank>Kindai Picks</a>」
近畿大学が運営するキュレーションサイト「Kindai Picks

 大学自らがメディアとなって、ネット上に散乱する近大関連ニュースを収集し再発信するスタイルは、他大学のみならず企業を含めて見渡しても珍しい。新しいオウンドメディアの形を提示する取り組みだ。広報部長の世耕石弘氏は「近大の教育・研究や卒業生の活躍など日々たくさんのニュースがネット上に流通している。社会から見た近大の姿であるメディアの記事を集約して配信することで、特に受験生とその保護者に近大の魅力と価値を伝えたい」と開設の狙いを語る。

 Kindai Picksの開設は、それだけ近大が数多く記事になっていること、すなわちメディア向け広報がうまくいっていることを示してもいる。昨年度、近大は369本ものニュースリリースを配信した。つんく♂さんプロデュースの入学式や、行列ができる養殖マグロ店、学生スポーツといったメディア受けする話題が豊富な近大だが、民間企業からの受託研究件数トップなど産学共同プロジェクトや植物性資源のバイオコークス燃料の実験など実学に関する話題が多いのが特徴だ。学部単位で広報担当者を置き、価値ある情報を漏れなく配信する体制を整えている。他大と比べてリリース本数は圧倒的だが、決して乱発ではない。4割以上が記事化されていて、メディア掲載率は他大と同水準にある。

近大は昨年度369本ものリリースを配信
近大は昨年度369本ものリリースを配信

 メディア掲載が増えた結果、近大は今や志願者数が2年連続で全国トップという人気大学になった。Kindai Picksは、他大から追われる立場となった近大が、メディアの過去記事を訴求材料として接触機会を増やすことで興味関心を喚起する、新たなブランディング戦略の一つと言える。

 関西圏のローカル大学である近畿大学が志願者数トップに上り詰めるまでの広報・広告戦略において、デジタル活用が果たした役割は大きく、一般企業も学ぶべきところがある。

 関西の私大には「関関同立」(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)と称される偏差値上位グループが存在し、近大は2番手グループ「産近甲龍」(京都産業大学、近大、甲南大学、龍谷大学)に位置する。こうした語呂合わせによる序列を突き崩すのは容易ではなく、「入れ替え戦なきリーグ戦」(世耕部長)で大学全入時代を勝ち抜く必要に迫られていた。

広報と広告部門を一体化

 そこで近大は、従来型の序列では測れない価値を訴えようと、2010年前後からデジタル活用を強化した。理系学部が多いことから女子学生の確保を目指して2010年度に新設した総合社会学部のPRでは、受験生世代に人気のアメリカンドール「ブライス」をキャラクターに起用した。ブライスが「0期生」として学部生活を綴るブログを開設し、新設学部で学ぶイメージを伝えた結果、目標を上回る志願者を集めることに成功している。1期生の約7割がブライスのブログや広告を見ており、好感を得た成果だ。

 このように近大は受験生のメディア接触の変化を意識し、出稿媒体や告知メディアを見直し、入れ替えている。他大を受験する近大附属高や提携校の生徒を対象に、受験情報を得るメディアをアンケート調査し、進学情報誌・サイトが想像以上に低かったことから出稿を見合わせた。新聞や雑誌の大学特集の広告企画も、13学部48学科を抱える近大が単科大学と同サイズでは詳細な情報を載せられず効果が薄いため、取りやめている。

 代わって注力しているのが、入試情報専用サイト「いくぞ!近大」の充実、YouTube動画配信、保護者向けに新聞広告(近大単独)、受験生向けに交通広告やLINE@アカウントでの情報提供など。反応を見ながらメディアの選択と集中を進めた結果、「予算は以前よりやや減らしたにもかかわらず、『広告に最近おカネかけてますね』とよく言われるようになった」(世耕部長)という。

 近大のPRがそれだけ印象に残るのは、新たな取り組みを発表する広報リリースとその広告がしっかり連携し、話題性を意識した内容に仕上がっているためだ。広報・広告の評価は、「ニュースになって志願者を増やす要因となること」(世耕部長)と明快である。広告では「輝く未来へ…」といったどこの大学でも使えるメッセージは排除して考案している。2013年4月には、広告宣伝部門に当たる入試広報セクションと、学校法人の広報セクションを一体化した広報部を新設した。

 例えば2009年の入試から導入していたインターネット出願を普及させるために2013年入試を前に打ったリリースでは、ネット出願を「近大エコ出願」と命名。前年の入試で用意した願書13万部を積み上げた高さは東京スカイツリー3本分の高さに相当すること、エコ出願なら受験料を割り引くことをアピールし、全国紙各紙で記事になった。そして広告では「近大へは願書請求しないでください」「かみ頼みの受験はもうやめだ」といったキャッチフレーズがSNSでもシェアされ、広告の話題化に成功した。前年まで3%前後だったネット出願率が一気に70%近くに達し、翌2014年入試から紙の願書を廃止して完全ネット化。記入漏れのチェックなど入試事務作業も大幅に軽減できた。

 このほか、アマゾンジャパンと連携してシラバスから直接オンラインで教科書を購入できるシステムや、保護者が授業の出欠や成績を照会できるサービス、新入生向けのハッシュタグを提示して入学前から友達作りを支援するなど、「大学がそこまでするのか」という賛否を一部伴いながらも、独創的な話題性のあるサービスやトピックを提供し続けている。

 2016年の国際学部の新設、2020年3月までに400億円を投じる大規模なキャンパス整備計画などプロジェクトに事欠かない近大は、今後も広報力の強化で、大学の序列を超える近大ブランドを確立させたい考えだ。

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