水産大手の日本水産が台湾でのネット通販事業を加速させている。同社は越境EC(電子商取引)を活用した試験販売を経て、昨年4月に台湾向けの商品を開発。現地に拠点は持たないながらも、台湾向けの自社サイトを開設して本格参入した。直近では、台湾でも登録者数が1700万人を超えるなど、利用者が広がるスマートフォン向け無料通話・メールアプリ「LINE」の広告商品を活用するなどして、デジタルマーケティングを強化。台湾でのネット通販の売上高は昨年比で2.5倍にまで拡大しているという。
日本水産が台湾向けにネット通販するのは美容商品だ。美容ドリンク「海の姫」や美容オイル「オレンジラフィー」を販売している。ファインケミカル事業部台湾通販責任者の高岡学氏は、「台湾は働く女性が多く、そうした人たちは健康に対して支出する金額が多い。当社では新規事業として水産物を原料とした健康食品を開発しており、これを台湾市場でも販売できないかと考えた」と言う。
しかし、いきなり拠点を設けて本格参入するのはリスクが大きい。そこで、まずは日本で販売している商品を台湾に向けてネットを通じて直接販売することで、市場の感触を探った。この試験販売は商品の需要だけではなく、ネット広告の市場調査も兼ねていた。
というのも、同社は以前に中国でのネット販売を断念した過去がある。「競争が加熱するあまり、広告費が高騰して費用対効果が合わない」(高岡氏)ことがその理由の1つだった。それゆえ、台湾がデジタルマーケティングを適正にできる環境かどうかを見極める必要があった。試験販売の結果、「売り上げ自体はそれほど大きくなったわけではないが、きちんと広告費に見合った成果が得られることが分かった」(高岡氏)ことから、本格参入を決めた。
テレビ連動施策で販売数は10倍超
昨年4月に、既存商品を基に台湾市場に適した商品を開発。自社ECを開設して販売を始めた。当初は適切な価格を探った。本数とセットの内容を変えた商品を複数用意して、Facebook広告で反応を分析した。結果として、「2500円が受け入れやすい価格として1つの目安となった」(高岡氏)。
次に広告施策に取り組んでいった。最初に奏功したのがテレビ番組でのPRとネット広告を連携した施策だ。番組での紹介に合わせてFacebook広告などを出稿。ランディングページにテレビ番組の内容を想起させるデザインを採用することで、番組を見た人がすぐに紹介された商品だと分かるようにした。これにより、「広告施策を展開する前の月と比較して10倍以上も売れた」と高岡氏は胸を張る。

定期宅配商品の開発は売上増をさらに後押しした。「台湾には定期宅配という文化があまりなく、受け入れられるかどうかは分からなかった」(高岡氏)ものの、広告経由で定期宅配を申し込む人が多く、さらに継続率も高いことが分かった。ネット広告では特にFacebook広告の効率が良く、初年度は広告費の約半分を費やしたという。ところが、こうした成功を見た競合他社が定期宅配を始め、かつFacebook広告も強化するなどした結果、Facebook広告の単価がアップ。そこで今年は、Facebookにかける広告費を前年比2割まで減少させた。
Facebook広告にかける費用を減少させた分、新たな媒体の開拓に取り組んだ。LINEはその1つ。LINEのポイントサービス「LINEポイント」と連動した広告商品を利用して、海の姫の購入でポイントをプレゼントするキャンペーンを展開したところ、「予想を上回る獲得数となった」(高岡氏)。こうした、ECでの販売や広告施策については、通販事業者のアジア進出を支援する台湾の企業、スタートアジアの協力を得ることで実現している。
今後の課題はCRM(顧客関係管理)だ。「台湾でも日本と同様にメールの開封率が下がり、メールマーケティングの効率が下がっている」と高岡氏は言う。一方で、既存客がリターゲティング広告経由で再び購入するケースが増えているという。そこで、離反した顧客を対象にリタゲ広告を配信するなど、広告も取り入れたCRMに取り組んでいく。