コーヒー器具メーカー大手のカリタ(横浜市神奈川区)がコンテンツマーケティングを強化している。約1年前に自社Webサイトを刷新したのを機に、三つ穴タイプのドリッパーなど自社の製品が作られる過程や、生活の中でのコーヒー器具の使い方などを紹介する画像を多数アップしている。

 背景には2つの事情があった。まず、「それまでは自社サイトでほとんど情報を発信しておらず、デザインも古めかしく、あまりにもお粗末だった」(企画部部長の新美敬氏)。その結果、サイトを見て入社の志望を取り下げる学生が現れるなど、採用活動にも影響が出始めていたのだ。

 もう1つは事業の方向性の変化だ。以前のカリタの上顧客は、コーヒー器具や豆などを扱う専門店と、どの町にもあった喫茶店だった。しかし近年は、雑誌やテレビでコーヒーの飲み方などを特集する機会が増えており、従来の顧客だけでなく、「百貨店やアパレル専門店など、消費者にライフスタイルを提案して差異化を図ろうとする流通企業が、好んでコーヒー器具を販売したがるようになった」(新美氏)。

 そこでカリタは約1年前、異業種と提携して開発した新製品を提案する「&Kalita(アンド カリタ)」ブランドを立ち上げ、同時に自社サイトを全面的に刷新して、&Kalitaを中心に、動画や画像をふんだんに使ったコンテンツをアップする作戦を採ったのだ。

ビームスや波佐見町、燕市と提携

 カリタは、衣料品や雑貨販売を主力とするセレクトショップ大手のビームス(東京都渋谷区)と提携し、ビームスが新しく展開し始めた店舗「B:MING LIFE STORE」限定で販売するドリッパーやマグカップを製作。さらに、陶磁器で有名な長崎県・波佐見町や、金属加工で有名な新潟県・燕市の地元メーカーと提携し、「HASAMI&Kalita」と名付けた陶磁器製のドリッパーや、「TSUBAME&Kalita」と名付けた銅製・ステンレス製のドリッパーなどを次々に開発していった。

&Kalitaの1つ「TSUBAME&Kalita」のドリッパーを作る燕市の職人。製品が出来上がる詳細な過程が、Webサイトにコンテンツとしてアップされている
&Kalitaの1つ「TSUBAME&Kalita」のドリッパーを作る燕市の職人。製品が出来上がる詳細な過程が、Webサイトにコンテンツとしてアップされている

 そして、これらの新製品がどのようにして生まれたのか、製品としての特長はどこにあるのかなどを、画像を多用したストーリー仕立てのコンテンツに仕上げ、スタイリッシュなデザインのサイトに次々にアップしていった。

 「&Kalitaとして開発した製品の質が高いことをしっかり解説し、同時に、コーヒーが身近に存在するライフスタイルも提案できるように心がけた」と新美氏は語る。サイトを充実させるための投資は以前の2倍以上かかったが、それまで雑誌や専門紙に出稿していた広告を約1年前にすべて取りやめ、自社サイトに集中することで対応した。

 資金や人手が不足しているため、現在はFacebookやTwitterといったソーシャルメディアを駆使した情報発信は、全く実施していない。その代わり、ビームスなど提携先のソーシャルメディアで&Kalitaの情報を発信してもらっている。「おかげで、アパレルなど異業種に勤める人々や、ライフスタイルに興味のある消費者にも、うちのサイトを見てもらえるようになって、カリタのブランドイメージが上がっている」と新美氏は言う。

 自社サイトのページビュー(PV)はきちんと計測していないため、この1年間でどれくらいPVが伸びたかは把握できていない。「体感では確実にPVは上がっている」と新美氏。実際、カリタ製品の引き合いはこの1年で着実に増え続けているという。例えば百貨店大手の伊勢丹とは、新製品の正式発売前に数量限定で商品を供給する関係を構築するまでに至ったし、1年前には各店1個だけの納品だったある大手スーパーとの関係も、先方の要望で各店に約30個納品するまで拡大している。自社サイトで多数のコンテンツを使って訴えた&Kalita製品の魅力を、異業種の人々はもちろん消費者までも支持したからこそ、カリタ製品の引き合いが増えていると言える。

 今後は、社員から希望者を募って自社でソーシャルメディアによる情報発信を始める考え。併せて、「近い将来、リアルな『&Kalita』店舗の開設を目指す」(新美氏)。リアルな店舗での顧客の反応を新製品開発にフィードバックするだけでなく、店舗で起きた出来事をコンテンツとして自社サイトに継続してアップし、&Kalitaブランドの質の高さを一層広く知らしめていく腹づもりだ。

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