アサヒビールは、自社のビール商品などを販売する外食企業に対するマーケティング施策の効果検証に、ビッグデータ分析ツールを活用し始めた。今年7月、全国に店舗を持つ大手外食に自社ビール商品、販促キャンペーン、値付けプランを組み合わせた新しいメニュー施策を提案。一部店舗にテスト導入したところ、関東エリアの店舗では同施策の未導入店舗と比べて売り上げが38.4%、粗利が44.3%と大きく向上した。関東とは店舗の利用形態が若干異なる関西エリアの店舗でも、やはり売り上げが10.1%、粗利が17.9%アップした。新施策の導入で業績が向上することが確認できたことから、大手外食は同施策を11月にも全店導入することを検討中だ。
アサヒビールがマーケティング施策にビッグデータ分析を活用するのは、これが初めて。今後は「ビッグデータ分析の活用が当社と取引先、双方にメリットがあるという相互理解が得られる企業」(営業本部業務用統括部の塙恭輔担当副部長)を対象に、取り組みを加速していきたい考え。
ノイズを除去して予測精度を高める
今回、アサヒビールは施策の効果を検証する実験を大手外食の一部店舗で4週間にわたって実施した。事前に大手外食から過去2年分のPOS(販売時点情報管理)データを特別に入手し、テスト店と過去の売り上げ規模や売り上げの変動パターンなどが近い、比較用の店舗(コントロール店)を選定。新施策を展開したテスト店とコントロール店との、立地や客層、売り場面積の違いといった施策以外の要素が与えるノイズを人口動態データなどを勘案して除去した上で、業績を比較。分析精度を高めている。

実はテストの過程では事前の想定と異なる結果が出て、展開を中止したケースもあった。通常よりも容量を小さくした特別なビールジョッキを導入して、販売価格を下げるというアイデアがあり、同じ大手外食の店舗でテストしたところ、予想に反して、業績にマイナスの影響を与えることが分かったためだ。「意外な結果に驚いたが、こうした経験もマーケティング施策をブラッシュアップしていく糧になった」と塙氏は振り返る。
アサヒビールが一連のビッグデータ分析に利用したのは、クラウドベースの予測分析ソフトを提供する米アプライド・プレディクティブ・テクノロジーズ(APT)の「Test & Learn」というツールだ。米ウォルマート・ストアーズやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など海外を中心に多くの導入事例があり、アサヒビールもそうした実績を評価して導入した。
この大手外食との間では、ビール商品「スーパードライ・エクストラコールド」とハイボール商品「ブラックニッカ フリージングハイボール」の導入効果の検証も実施している。その結果、エクストラコールドを導入した店舗ではドリンクカテゴリー全体の売り上げが4%アップし、フリージングハイボールもハイボールカテゴリーの売り上げを50.5%、ドリンク全体の売り上げを9%押し上げる効果があることが確かめられたという。アサヒビールはこうして得られた知見を今後、さまざまなマーケティング施策に応用していく方針だ。