※この記事は、「【特集】電通不祥事はパンドラの箱か(前編) 不正請求、意図せぬサイトに出稿、デジタル広告に問題山積」の続きです。

 「弊社では、『AbemaTV(東京都渋谷区)』と直接の広告取引はありません。しかしながら動画広告ネットワークからの配信の可能性があり事実関係を確認中です」

 電通の不正の発表と時を同じくして、9月23日にユニリーバ・ジャパンからこんなプレスリリースが配信された。広告主企業から、特定の媒体社と取引がないことを表明するためのプレスリリースが出されることは珍しい。

意図せぬ動画に広告が配信

 ことの発端は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)前会長の桜井誠氏がFRESH! by AbemaTV上に開設したチャンネルだ。FRESH! by AbemaTVは利用者がチャンネルを開設して、自由にインターネットを通じて生放送できるサービス。このサービス上に桜井氏は公式のチャンネルを開設して、生放送を実施しようとした。

意図せぬ広告配信によって批判を浴びたユニリーバ
意図せぬ広告配信によって批判を浴びたユニリーバ

 しかし、同氏は昨年12月に東京・小平の朝鮮大学校前で行ったヘイトスピーチについて、法務省人権擁護局から、これを違法のものと認識して同様の行為に及ばないように勧告を受けた人物。それゆえ、チャンネル開設の告知後、すぐに同氏に反発する消費者から非難が殺到した。

 非難はAbemaTV側にも及んだ。ただ、FRESH! by AbemaTVはあくまで生放送ができるプラットフォーマー。開設するチャンネルや配信するコンテンツに対して、運営元のAbemaTVは中立的な立場にある。そのため、AbemaTVに共同出資するサイバーエージェント常務取締役メディア事業管轄の小池政秀氏は「チャンネル開設の審査の際、メディアポリシーに則って開設を許諾したにすぎない」と説明する。

 桜井氏はチャンネルを開設した同日に「ベータ放送」として、無料で生放送を実施した。この生放送中に、ユニリーバの動画広告が配信された。そのため、ユニリーバが同チャンネルをスポンサードしていると見た消費者は、批判の矛先を同社にも向けた。

 「レイシスト桜井誠の番組を提供したユニリーバ製品は死ぬまで買いません」。Twitter上には、こうしたツイートが散見される。

 しかし、ユニリーバがチャンネルをスポンサードしていた事実はない。F R E S H ! by AbemaTVには生放送をする利用者に対して、収益を上げられる仕組みを複数提供している。広告の掲載もその1つだ。AbemaTVが連携する広告ネットワークを通じて、生放送中にオーバーレイ型のディスプレイ広告や動画広告を掲載できる。生放送をする利用者はその広告費の一部を得られるという仕組みになっている。つまり、桜井氏の生放送に、動画広告ネットワークを通じて偶然ユニリーバの広告が配信されてしまったわけだ。その後、「放送された内容などを加味して、AbemaTVの判断でチャンネルを閉じた」(小池氏)。

 「本件はレアケースではあるが実際に起こってしまった。媒体側として対処できることは検討していく」と小池氏は言う。具体的には、生放送の配信主によって広告の配信機能に制限を加えることなどを検討しているという。また、チャンネル開設時の審査方法の見直しや、生放送の中身の監視体制の強化についても検討を進めている。

 ここまでの炎上につながったのはまれだが、意図しない動画に対して広告が配信されることは珍しくない。例えば、海外の動画サイトを閲覧すれば、テレビ番組をそのままアップロードした動画など、明らかに著作権を侵害しているにもかかわらず、日本の著名な企業の動画広告が流れることは少なくない。こうした実態は、ブランドの毀損につながりかねない危険な状況だと言える。これが動画広告ネットワークが抱える大きな課題の1つである。

動画広告の効果測定基準に問題

 動画広告を配信する媒体、広告配信のサービス、そして効果測定までを垂直統合的に提供するプラットフォーマーゆえに起こった問題もある。米フェイスブックは現地時間9月23日に、動画広告の効果算出の方法に問題があったと発表した。

米フェイスブックも動画広告の効果測定に問題があったと発表
米フェイスブックも動画広告の効果測定に問題があったと発表

 動画広告の分析や広告の効果測定をするシステムにおいて、「動画広告の閲覧時間の合計」を「動画広告の閲覧人数」で割った数値を「平均動画視聴時間」と定義して、広告主に提供していた。ところが、実際には、「動画広告を3秒以上閲覧した利用者の人数」で算出されていた。つまり、閲覧時間が3秒以内で離脱した利用者は算出の母数に含まれていなかった。当然、算出した数値は実態よりも高くなる。過去2 年間にわたり、60~80%も過大に算出されていた可能性があるとも報じられている。

 この問題点は発表の約1カ月前に発覚したという。フェイスブックはすぐさまシステムを改修し、広告事業を統括するバイスプレジデントのデービッド・フィッシャー氏を通じて、「平均動画視聴時間はマーケティング担当者にとって数ある指標のうちの1つにすぎないが、当社は真剣に向き合う」とのコメントを発表した。

 Facebookにおける動画広告は、動画が3秒以上閲覧されないと広告料金が発生しないため、「広告料の請求には一切影響を及ぼしていない」(フェイスブック)としている。しかし、広告を配信する媒体とその効果を算出するのが同一の会社で、その算出の仕組みがブラックボックスである限り、同様の問題が今後も起きないとは断言できない。フェイスブックの2016年4~6月期の売上高は前年同期比59%増の約6780億円。この好業績は動画広告の好調によっていただけに、本件で信用を損ねれば業績の伸びに急ブレーキがかかりかねない。

 そこで信用性を担保するため、フェイスブックは調査会社の米ニールセンや広告解析ツール事業の米モートなどと提携。独立した第三者機関による広告の検証を求める広告主のニーズに応えていく方針だ。