来店誘導する正攻法の施策として、訪日客が多数詰めかける“驚安の殿堂”ドン・キホーテ(以下ドンキ)の取り組みを見てみよう。
インバウンド情報メディア「中国トレンドExpress」の編集長を務めるホットリンクコンサルティング(東京都千代田区)の四家章裕氏は、訪日中国人客が持つ買い物への不満として、「閉店時間が早すぎる」「時間が足りない」の2つを挙げる。
この不満を解消しているのがドンキである。深夜営業はご存じの通り。足りない買い物時間を解決する策として提供しているのが、今年2月に開設した「ウェルカム予約サイト」だ。中国語のほか英語、韓国語、タイ語、日本語に対応している。

旅行前に同サイトで希望の商品を予約し、訪日客が指定したドンキ店舗で、商品を受け取ることができる。同サイトで取り扱う商品は、訪日客に特に人気の商品約200アイテム。事前に予約することで、限られた時間で買い物をする訪日客の時間節約につながり、また「来店したが希望の商品が品切れだった」という“ガッカリ”も解消する。
このほかドンキでは、全国の店舗とタブレット端末を介して4カ国語で対応するコールセンター「ウェルカムデスク」の設置、全国19の旗艦店に訪日客対応専用のサービススタッフの配置、無料Wi-Fiサービス、外貨でレジ精算できるサービスなども展開している。同社インバウンド強化委員会委員長の服部将允氏は、「オンライン・オフライン問わず、快適な買い物環境の整備に取り組んでいく」と語る。良い買い物体験は良いクチコミにつながるはずだ。
現地の決済を導入した大丸松坂屋
大丸松坂屋は、中国版LINEとも呼ばれる「微信(WeChat)」の公式アカウントを10月1日から始まる国慶節に向けて開設し、微信が展開する決済サービス「微信支付(WeChatPayment)」を導入した。対象店舗は東京店や大丸心斎橋店、松坂屋名古屋店ほか計8店舗の化粧品など一部の売り場。国内の百貨店では初の試みだ。
中国本土では都市部を中心に20~30代の若い層に手軽な決済手段として利用されている。手慣れた決済手段を利用できるようにすることで、購入を促進したい考えだ。


大丸松坂屋のインバウンド担当でMD・チャネル開発統括部部長の小野圭一氏は、「WeChatアカウントからの情報発信という販促視点とセットで考えている。いつも通りの決済で安心して買い物を済ませたお客に、店舗アカウントから情報提供を継続することで、リピーターを増やしたい」と語る。

そのため、アカウントフォロー促進キャンペーンを10月20日まで実施した。店内の所定位置でBluetooth機能がオンになっているスマートフォンを「シェイク」した微信アプリユーザーに、大丸松坂屋の微信公式アカウントを表示する。フォロワーになったユーザーには同社のSNSキャラクター「さくらパンダ」のデジタルステッカーをダウンロードできる“おまけ”を付けた。今後も地道にフォロワーを増やしながら発信力を高めていきたい考えだ。
大阪・あべのハルカスにある近鉄百貨店、東武百貨店の池袋本店、丸の内エリア(三菱地所)など、他社でも微信のシェイク機能で店舗情報やクーポンを発信する取り組みが相次いでいる。
最後に、訪日客が本国に帰国後も、EC(電子商取引)を通じてリピート購入してもらう取り組みについて。タイ向けインフルエンサー活用事例としてパルコが9月下旬、海外からの購入に対応した。
ECサイトを海外対応にしたパルコ
パルコは、館内の各ショップ店員がブログで発信する商品を、取り置きしたり購入したりできるECサイト「カエルパルコ」を2014年5月に開設し、今春から全店で対応している。このカエルパルコを海外からの注文にも対応させた。

デジタルガレージグループでEC決済事業を提供するベリトランス(東京都渋谷区)の海外向け購入代行支援サービス「BuySmartJapan」を導入した。ECサイトに簡単なコードを加えるだけで、海外からの購入に対応できる。
海外からのアクセスに対してIPアドレスを判別して使用言語に対応したバナーを表示し、注文サイトに誘導する。注文すると、ベリトランスがカエルパルコで商品を代理購入し、パルコのショップ側はベリトランスの海外発送倉庫へ商品を送る。そしてベリトランスが注文客にEMS(日本郵便の国際スピード郵便)で商品を発送する流れだ。パルコは自前でECの多言語化や海外発送の体制を整えなくても、海外の消費者を顧客対象とすることが可能になった。
海外にいる訪日予備軍にSNSなどを通じて情報を発信し、訪日中は情報発信に加えてサービスや決済手段の多様化で店舗への誘導を図る。帰国後はSNSやECを通じてリピーターとして育成する──。訪日客をうまく取り込む成功条件を整えられた企業は、国内消費者の取り込みにも先んじる可能性が高いはずだ。