マス広告を主体としたブランディング施策と、会員登録や購買といった直接コンバージョンを狙う運用型のネット広告は、目的が異なるため担当部門が全く異なる。クリエイティブの制作も、それぞれの部門が独自で行うことが多い。こうした企業は少なくないだろう。就職支援事業のリクルートキャリアも、かつてはそうした組織体制の下で広告を出稿していた。

 しかし、「ユーザーの体験はサイトのボタンの配置を変えるとかではなく、広告の接触時点から一貫して作られるべきだ」(IT戦略室プロダクトマーケティング部ブランドグループの柳澤正規マネージャー)といった考えへと変わる中で、マスとネットの全体でブランディングをできる組織へと体制も変化した。そして、新体制での具体策として、今年8月のキャンペーンでは、運用型広告においても、ブランド担当部門と共同でクリエイティブを制作する施策に取り組んだ。その結果、顧客獲得単価(CPA)が21%減少し、コンバージョン率(CVR)は1.39倍高い成果につながるクリエイティブも見られた。

リクルートキャリアが進めた組織改革の概念
リクルートキャリアが進めた組織改革の概念

 リクルートキャリアの組織が大きく変わったのは、昨年10月のこと。従来の広告宣伝部門はマス広告を出稿することが主な業務だった。ここにネット広告の運用部隊が加わり、マスとネット全体でブランド戦略を進める「ブランドグループ」が、プロダクトマーケティング部の傘下に設置された。同グループがプロダクトマーケティング部の傘下に設置されているのは、冒頭の柳澤氏の説明にある通り、広告とサービス開発の全体で一貫したブランド体験を作るためだ。

ABテストの限界を打破する一手

 具体的に取り組んだ施策の1つが、タレントの大泉洋さんを起用した転職情報サイト「リクナビNEXT」のプロモーション「フレフレ、人生。」だ。同プロモーションは、「一人ひとりの転職に寄り添う」というサービスコンセプトを、大泉さんの歌を通じて伝えるもの。「フレフレ、人生。というキャッチコピーが表す通り、なるべくシンプルに伝えることを目指している」(柳澤氏)。

 このプロモーションにおいて、テレビCMと連動したネット広告のクリエイティブ制作を、初めて実施した。というのも、冒頭の説明通り、これまでリクルートキャリアでは、ネット広告の活用は獲得を目的としたものが大半だったため、クリエイティブ制作も独自で行っていたからだ。

 例えば、広告に掲載する人物もテレビCMとは全く無関係のモデルなどを撮影して起用する。キャッチコピーも獲得を強く意識しており、「転職決定数ナンバーワン」といった、直接的に訴求する表現を多用していた。広告の配信後には効果を測定しながら、ボタンの色や配置を細かく変えたクリエイティブを制作して、同時並行で配信するABテストを繰り返し実施。「デザインとしてはキレイなものではなかったが、最も効果の高いチャンピオンを探すためにひたすらABテストを繰り返しているような状況だった」(ITマネジメント統括部サービスデザイン2部デジタルマーケティンググループの松原央達氏)。

 もちろん、それによって効果も出ていた。ただ、ブランドグループの設置によって、新しい風が吹き込まれた。ネット広告のクリエイティブの検証にも、これまでマス広告を主に担当していたブランド側の担当者も参加することになったのだ。こうした中、フレフレ、人生。のプロモーションにおいては、テレビCMにも出演している大泉さんを起用したディスプレイ広告を制作した。キャッチコピーも、これまでのダイレクトマーケティング的発想とは打って変わって、「転職のそばに」といった、コンセプトに沿ったものを取り入れた。

 こうして制作した複数のクリエイティブの広告を、「Yahoo!JAPAN」のインフィード広告として8月22日から配信し始めた。「リクルートキャリアが広告を配信する中で、最も大きなネットメディア」(松原氏)を活用して、検証したわけだ。

 配信する前は、「ダイレクトマーケティングの担当側からすれば、マス向けに作ったキレイな広告なんて、反応が高いはずがないと思っていた」(松原氏)と半信半疑だったと振り返る。ところがふたを開けてみれば結果は違った。9月26日までの集計データを見ると、全体でも従来の広告と比較してCVRが1.17倍高い成果が出て、わずかではあるが、成果の向上につながった。また、中にはCVRが1.39倍となる広告クリエイティブもあり、「ブランドの要素を取り入れることで、効果を向上させられる可能性があることが発見できた」(松原氏)。

テレビCMの検索押し上げ効果を分析

 ディスプレイ広告の最適化は1つの施策にすぎない。ブランドグループでは、マス広告とネット広告の最適な予算配分を探る調査にも取り組んでいる。というのも、「従来はマス広告とネット広告で全く別に予算取りをしていたが、ブランドグループができたことで予算が一本化した」(柳澤氏)ため、より効果を最大化するための、最適な予算配分が求められるからだ。

リクルートキャリアのフレフレ、人生。のサイト
リクルートキャリアのフレフレ、人生。のサイト

 今夏には、放送したテレビCMが、リクルートキャリアの展開するサービスのブランド名での検索数の増加の積み上げ効果につながっているのかをシミュレーションするシステムを開発した。Googleの検索キーワードの推移といったデータをそのまま使うことはできないため、ブランド名での検索の推移は、検索連動型広告経由でサイトを訪問した利用者のデータを利用している。

 このブランド名での検索数の推移にテレビCMの放送データを重ね合わせて、季節要因などを除くことで、中長期的にテレビCMがどれぐらいブランド検索の増加に寄与したかが算出される。この数値を軸に今後、どのようにテレビCMを出稿することで、効果的にブランド名での検索数を底上げしていけるかを予測できるという。

 直近では、テレビCMとネットの動画広告を、それぞれ何回ずつ閲覧するとよりブランド想起率が高まるかといった調査にも取り組み始めている。調査にはシングルソースパネルを用いる。これにより、調査対象のパネルのテレビCMの視聴動向と、ネットの利用動向を一元的に分析できる。

 調査方法としては、まずアンケート調査でテレビCMの視聴回数を尋ねる。これをベースにネットの動画広告の視聴回数をかけ合わせて、視聴回数ごとに調査対象をグループに分ける。そして、各グループに対してブランド想起に関するアンケートを行う。これにより、テレビCMとネットの動画広告をそれぞれ何回ずつ閲覧した場合が、最もブランドの想起率が高まるかを割り出そうとしている。その分析結果をもって、次回のプロモーションではテレビCMとネットの動画広告の予算配分の最適化に生かそうとしている。

 リクルートキャリアは新たな組織体制の下、こうした調査を実施して知見をため、従来のマス広告とネット広告の垣根を超えた連携を推進していくことを目指す。