ネット調査、「手抜き」回答横行か 質問文読まずに…。9月29日に朝日新聞デジタルが報じたこの記事はマーケティング業界関係者の間で話題に上り、同日・同サイトのアクセスランキングで3位の人気記事となった。ネットリサーチでは質問文をしっかり読まずに「手抜き回答」しているモニター回答者が多いという関西学院大学教授らの研究結果「オンライン調査モニタのSatisficeに関する実験的研究」について記事化したものだ。

 ポータルサイトなどが実施している投票調査の類ならば、1人が何回も投票したり、組織票を誘導したりすることも可能なため、結果が歪むことがある。自民が政権復帰した2012年12月の総選挙を前に「ダイヤモンド・オンライン」がサイト上で実施したアンケート調査では、「比例区で投票する党」のトップが「国民の生活が第一」(調査直後に「日本未来の党」に合流)だった。

 しかし朝日が取り上げたのはこうした簡易調査ではなく、調査を事業としているネットリサーチ、その回答モニターの質についてである。ネットリサーチ2社で“引っかけ質問”を紛れ込ませたところ、それぞれ51.2%、83.8%が設問の指示を守らなかったという。数字だけ見れば由々しき事態だ。

 引っかけ質問の内容は下図の通り。長ったらしい質問文の最後に「回答せずに次の質問に進んで下さい」と記し、最後まで読まずに選択肢から選んだ人は手抜き回答者というわけだ。果たしてこれがいい加減なモニターと言えるのか、モニターの立場で考えれば分かるだろう。また、この研究では郵送調査など他方式と比較調査をしていない。紙ベースでも同様の結果が出ることは十分に考えられるが、朝日の記事は「ネットならではの課題もありそうだ」と根拠なく結論づけていた。

最後まで読まずに選択肢を選ぶと手抜き回答らしい
最後まで読まずに選択肢を選ぶと手抜き回答らしい

 マクロミルでリサーチ技術を研究するマクロミル総研主席研究員の西部君隆氏は、「すべて選択肢の4番目を選ぶような『ストレート回答』を弾いているのはもちろん、全50問を数分で終わらせているような回答を排除するために回答完了時間の上位数%は捨てるといった、紙ベースでは難しい“クリーニング”も行っている」としてネット調査不信論に反論する。マクロミル総研は10月9日、研究および朝日記事に対する見解を自社サイト上で公開した。クロス・マーケティングも顧客からの問い合わせに備えて回答を用意したという。

 同研究は、長い質問文の最後に重要な指示書きをしても読まれないという当たり前のことを実証したにすぎない。手っ取り早くアンケート回答を済ませたいのは人間の性。それを踏まえて、分かりやすく、モチベーションを下げないような設問設計をするのがリサーチャーの仕事だ。回答端末がパソコンからスマホに移行しつつある今、画面を質問文で埋め尽くさないようなコンパクトな質問設計がますます重要になっている。

■修正履歴
記事掲載当初、自民が政権復帰した総選挙が「2013年12月」となっていましたが、2012年12月の誤りです。本文は修正済みです。[2015/10/14 10:00]
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