メルセデス・ベンツ日本(東京都港区)が、VR(仮想現実)コンテンツを活用したブランディングに力を入れ始めた。同社のショールームにはなかなか足を運ばない、20~30代など比較的若い消費者や女性にもメルセデス・ベンツ車の良さを知ってもらい、将来の購買へとつなげるのが狙いだ。

 手始めに、東京・代官山の蔦屋書店の中に、クルマを置かない代わりにVRシステムを4セット備えたショールームを、7月13日~9月13日の期間限定で開設した。このショールームにはデジタルサイネージや複数のタブレット端末などもあり、さまざまなデジタルコンテンツを通じてメルセデス・ベンツのブランドとしての魅力を訴えた。

 すると、2カ月の間に約4000人がショールームを訪れ、そのうち約1割に当たる約400人が、ショールームから少し離れた場所に3台用意されたベンツ車に試乗するか、試乗に興味を示したという。メルセデス・ベンツ日本の事業開発課マネージャーである長谷川孝平氏は、「試乗希望が約1割というのは、予想を上回るもの。試乗を希望した消費者に20~30代が多かったことも期待以上の成果」と笑みを見せる。

 メルセデス・ベンツが重視した「来場者に対する試乗希望者の割合」が予想を上回ったのは、用意したVRコンテンツの魅力のおかげと言える。

東京・代官山のショールームに設置されたVRシステム
東京・代官山のショールームに設置されたVRシステム

 実は、このショールームでは、椅子に座ってヘッドマウンテッドディスプレー(HMD)とヘッドホンを装着し、画面上に表れる6つのプログラムの中から好みのものを1つ、体験できるようになっていた。再生が始まると、目の前に広がる映像と音の中に没入するという仕掛けだ。メルセデス・ベンツ車の運転席にいる感覚で、舗装された道路でクルマが加速していく様や、未舗装の道路のカーブを曲がる様子などを体感できる。クルマの外側からの視点で、砂浜や砂塵の中をメルセデス・ベンツ車が走る様子を見る映像も含まれている。

 VRとは言っても、実際にハンドルを握って運転するものではない。だが、それが故に、VRコンテンツの中のスピード感やメルセデス・ベンツらしい雰囲気に興味を持った消費者が、実際にハンドルを握って運転したくなり、試乗を希望する──といった好循環が生まれたようだ。

大阪でもVRショールーム

 この結果を踏まえ、メルセデス・ベンツは10月1~31日まで、大阪・梅田の大型商業施設「ルクア」内にある蔦屋書店の中に、東京・代官山と同じVRシステム(4セット)やデジタルサイネージ、タブレット端末などを備えたショールームをオープンする。試乗を希望する来場者は、隣のビルにある同社の滞在型ショールーム「メルセデス・ベンツ コレクション」に移動し、そこから試乗に出発する仕組みだ。東京より多い来場者を見込んでおり、「メルセデス・ベンツ コレクションにもVRシステムを1~2台用意して、多くの来場者にVRコンテンツを体験してもらう予定」(長谷川氏)という。

 今後は、VRシステムで自動ブレーキシステムを体感してもらうなど、メルセデス・ベンツの安全性を理解してもらえるコンテンツも制作する計画だ。「クルマの代わりにVRシステムを置くショールームを、(東京、大阪以外の場所でも)期間限定で展開することを検討していく」(長谷川氏)という。

 また、同社のショールームで、希望者に7月15日から発行しているオリジナルデザインのTカードのデータ活用も進める。一連の施策には、蔦屋書店を傘下に抱えるカルチュア・コンビニエンス・クラブ子会社で、データを活用したマーケティング支援を行うCCCマーケティング(東京都渋谷区)が協力している。同社のサポートを受けつつ、メルセデス・ベンツのユーザーや興味を持つ消費者の行動傾向を把握し、今後のマーケティングに生かすことも狙っている。