「(かつては)解析ツールが貧相なため、データも十分に取れない。広告主側もリテラシーがないため、レポートも細かく見ない。(数字を)ごまかそうと思えば、いくらでもごまかせた」

 ある大手総合広告代理店の元社員はこう明かす。レポートの提出段階で数値を操作して、広告主に対して意図的に効果的だったかのような印象を与えることが常態化していたというわけだ。電通を舞台に発覚した、運用型広告のレポートの不正は、旧来型の広告代理店の体質が招いた結果だろう。

 ネット広告は、配信結果やクリック数といったデータを精緻に取得できる。広告管理ツールの管理画面を見れば、配信した広告のインプレッション数や、クリック数、広告の配信単価などが一目瞭然だ。今回、電通が実際に社内で行われた不正の1つとして挙げる、「広告が掲載されていないにもかかわらず掲載費を徴収する」といった事態は、広告管理ツールの管理画面と併せて広告主に結果を報告していれば、起こるはずがない。

電通が発表したニュースリリース
電通が発表したニュースリリース

 あるネット専業広告代理店の元社員は「広告主が求めれば、広告管理ツールの管理画面のスクリーンショットを送ったり、管理画面を見せたりすることもある」と説明する。また、別の企業の社員は「広告主も計測ツールを使って実数値をリアルタイムで見ているため、不正をしたくてもできない」と言い切る。

 ところが、電通では、こうした管理画面で分かる数値を広告主側には開示せず、表計算ソフト「Excel」で広告のデータを管理して、レポートとして提出していた。そのため、手元でデータを改ざんして、実態とは異なる虚偽の報告をすることが可能だった。事態を重く見た電通では、「広告の配信データを、広告主が直接見られるダッシュボードの開発を検討し始めている」と関係者は語る。

マス広告とネット広告で異なる体制

 不正を招いたもう1つの理由は、チェック体制の不備だ。電通ではレポートを作成する際に、検索連動型広告やDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を通じて配信したディスプレイ広告、SNS広告など、さまざまなプラットフォームの配信データを1つのExcelのシートに取りまとめていた。このような複雑な作業をしているにもかかわらず、「おかしな点を発見する管理体制が不十分だったことは間違いない」と中本祥一副社長は説明する。

 マス広告については、「出稿する部門と、実際にテレビCMなどが放送されたことを確認して請求書を発行する部門が異なる。部門を分けることで緊張感を保っているため、不正が起こることはありえない」と中本氏は断言する。だが裏を返せば、ネット広告はこの役割分担ができていなかったということでもある。その結果、「(広告を運用する)本人以外は数字を見ていなかった」(中本氏)ため、不正を見抜くことができなかった。電通では今後「発注、掲載、請求を管理する体制を強化する」(中本氏)方針だ。

 また、不正に至った直接的な要因ではないものの、ブランディングに運用型広告を活用するケースが増加していることも1つの要因となっているのではなかろうか。というのも、「ダイレクトマーケティング系の顧客の場合、広告主側の担当者がCPA(顧客獲得単価)や顧客獲得数などの数字を厳しく追いかけている」(ネット専業広告代理店の元社員)ため、不正がしにくい。

 ところが、ブランディング広告の場合には、広告主側でも明確な指標を策定できていないケースが少なくない。自社で指標を持たず、広告代理店の作成するレポートの数値だけを見ていては、不正が行われていても見抜けない。運用型広告のブランディングへの活用は、動画広告の在庫量が増え始めたことで、国内でも市場が拡大し始めた新たな領域だ。今後は広告主側も、運用型広告の成果の確認などを広告代理店に丸投げするのは避けたい。社内で測定可能な指標を設けるなどして、広告主と広告代理店の双方で効果測定をできる体制を整えるなど、兜の緒を締める必要がある。