これまでは「1回の購入金額が5400円以上の場合は配送料無料」だったが、今後は常にユーザーに配送料を支払ってもらう代わりに、5400円以上の購入で配送料相当分の独自ポイントを付与する──。こんな施策を9月下旬から始めるのが、ロコンドだ。

ロコンドは配送料ポイントバック

 靴専門ECサイトとして2011年に事業を開始した当初は、それまでの常識を覆す「全品送料無料、99日間返品OK」を打ち出し、自宅で靴を試着できることをうたって注目された。今回の取り組みも、「ユーザーと私たち、宅配を担う物流会社の3者で、宅配の現場にかかる負担を分散する仕組みを導入しないと、今後の成長が望めない」(田中氏)という危機感から、半年かけて準備してきた。

ロコンドが9月から導入する新しい取り組み
ロコンドが9月から導入する新しい取り組み

 原則として、ユーザーが適正な配送料を負担するようにした。だが、そのままではユーザーから見るとサービス低下に映る。そこで、これまでもサイトへの投稿などに対してユーザーに付与してきた独自ポイントを活用することにした。1回5400円以上の購入で配送料無料という特典に代わり、同条件で配送料相当分を独自ポイントで付与する。ユーザーから見れば、たまった独自ポイントはロコンドでの次回以降の購入に使える。ポイント付与の機会を増やし、既に全体の70%を占めるリピーターをさらに増やしながら、購入頻度の引き上げも狙った。

 それだけではない。ユーザーのさまざまなニーズに応えるため、配送サービスも多様化した。

 まず、従来は宅配の99%をヤマト運輸に委託してきたが、新たにソフトバンクグループの物流会社と提携し、14時までの注文なら、当日の深夜(午後9~12時)や翌日の早朝(6~9時)に配送するサービスを9月中に開始する。配送する時間帯も1時間単位で指定できる。「仕事をしていて日中や夜早い時間に荷物の受け取りができないユーザーには、役に立つサービスと考えた」(田中氏)。当面は東京都心の7区を対象とするが、年内には東京23区にまでサービス対象地域を拡大する計画だ。

 また、14時までの注文を最短で翌日午前中に届ける「お急ぎ便」の配送料を486円から390円へ値下げし、併せて必ずしも荷物の受け取りを急いでいないユーザーのために、注文翌々日以降の配送になる「急ぎません。便」や「日時指定便」を新たに導入。それぞれの配送料金を「お急ぎ便」から100円割引とした。さらに、ポスト投函可能で、ヤマト運輸のネコポス便を利用する場合の配送料も値下げした。

 「ユーザーは自分のニーズに合った配送サービスを選べるから、満足度は向上すると考えている」と田中氏。今回の取り組みで、ロコンドの負担は増す見通しだが、「これまで力を入れてきたターゲティング広告など、リピーター向けのネット広告の出稿を減らすことで対応する」(田中氏)。ポイント付与の強化でユーザーのリピーター化が図れるため、リピーターをサイトに呼び込むための広告は、削減しても影響は軽微と踏んだ。その一方、新規ユーザー獲得のための広告は従来通り継続する。

 宅配のラストワンマイルの問題を契機に、独自ポイントの活用と配送サービスの多様化に踏み切り、顧客のリピーター化と購入頻度の向上を図っていくロコンドは、今後もユーザーの満足度を向上させる配送サービスの改善を検討していくという。

 EC専業のロハコやロコンドと異なり、リアル店舗とECサイトを組み合わせてオムニチャネルを展開する企業も少なくない。中でもアマゾンの対抗馬の1つとして注目されているのが、「ヨドバシ・ドット・コム」を運営するヨドバシカメラだ。

 その理由の1つが、一部地域を除き、ヨドバシ・ドット・コムで取り扱う全品を、全国どこでも無料で配送するサービスを展開していること。昨年9月には、対象地域が東京23区とその周辺に限られ、選べる品目もヨドバシ・ドット・コムで扱う全商品の約10%に相当する約43万品と制限されるが、注文当日に即日配送する「ヨドバシエクストリーム」サービスを開始して話題を呼んだ。

オムニチャネル徹底のヨドバシ

 宅配のラストワンマイルに問題が生じている時期に、あえて配送料無料や即日配送サービスを展開するのはなぜか。それは、「店でもネットでもユーザーの望むチャネルで購入してもらう」(藤沢和則副社長)というオムニチャネル戦略を徹底しているからだ。

ヨドバシ・ドット・コムが提供する基本的な配送サービス
ヨドバシ・ドット・コムが提供する基本的な配送サービス

 藤沢氏は、「店で買ってもネットで買っても同じ条件にするには、配送料を一律無料にするのがユーザーにとって分かりやすい。店舗での販売にも、店舗の維持費や販売員の人件費などコストはかかっており、ネット販売だけ配送料をユーザーに負担していただくのは違和感がある。エクストリームサービスも、スピードが重要ではなく、お客さまの要望に合わせて届ける体制を整備することに意味がある」と語る。

 もっとも、これらの配送サービスはヨドバシカメラだからこそ実現できる面もある。

 まずヨドバシカメラは、ヤマト運輸などに宅配などの物流を委託してはいるが、既に全国に6つの大型配送拠点を整備するなど、全国に商品を配送できる独自の物流網を抱えている。ヨドバシエクストリームサービスを開始する際には、既存の大型拠点とは別に、都内に13の配送拠点と300台の配送用車両を用意し、専任の社員が配送に当たる体制を整えたほどだ。そこまで物流に力を入れるのは、「商品を自宅に届けるところまでがヨドバシカメラの責任」(藤沢氏)と考えているからだ。

 事実、ユーザーがヨドバシ・ドット・コムで商品を購入する際、ヤマト運輸や日本郵便など宅配業者を指定すれば、配送料350円がかかる。外部の宅配業者をあえて指定するユーザーには、その会社の責任で商品を届けるため、対価となる配送料を負担してもらうという考え方だ。

 また、ヨドバシカメラは最近、コミックやアウトドア用品、ペット用品など相対的に安価な商品の品揃えが豊富になってきたが、主力は高額の家電商品で、本や雑貨、食料品などを扱うほかのEC事業者と比べて、「購入1回当たりの顧客単価が高め」(藤沢氏)である。このため、競合するEC事業者に比べて、配送料相当分を自社で負担しやすいのだ。

 ヨドバシ・ドット・コムは今年3月期で売上高が1000億円を超え、大阪・梅田や東京・秋葉原にある大型リアル店舗を抜いて、ヨドバシカメラの“1番店”に躍り出た。オムニチャネル戦略を徹底し、「リアル店舗に来店したお客様にも、場合によってはネットでの購入を勧めてきた結果」(藤沢氏)である。おかげで最近では、リアル店舗から遠い地域に住み、店舗に来店した経験がないと思われるユーザーの利用が増えているという。これこそヨドバシカメラの狙いだったと言ってよい。今後もオムニチャネル戦略を徹底し、ユーザー層を広げていくことを狙う。

 今回、取り上げたロハコ、ロコンド、ヨドバシに共通しているのは、EC事業者として配送を考える際、どんなユーザーに何を売っているかを明確に意識しながらサービスを組み立てている点だ。ロハコは、水や米といった重い商品を購入するため自宅以外での受け取りが難しいユーザーが多い、という事情がある。ロコンドはもともとリピーターが70%という顧客層だからこそ、ポイントバックが素直に受け入れられた。ヨドバシカメラの一律配送料無料は、顧客単価が高めだからこそ無理なく採用できる策でもある。EC事業者やオムニチャネルの推進企業は、今後、自社のユーザーの状況を把握し、配送まで含めてマーケティングを考える必要がますます高まることになりそうだ。

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