愛知県に本社を置く味噌メーカーのマルサンアイは、2つの自社ECを使い分けている。1つは「大豆ひとすじマルサンアイ」。こちらは既存商品のまとめ買いができるサイトだ。

低糖質商品を矢継ぎ早に投入

 マルサンアイは中部エリアにおいては味噌の市場シェアで1位を誇る。ただ、他地域では他社に一歩及ばない。そのため、地元でマルサンアイの味噌を愛用していた消費者がほかの地域に引っ越すと同社の商品が手に入りにくくなる。そうした消費者のために、買える場所を用意した。

 一方、新たな市場の開拓を目指し、ここ数年力を入れているのが、もう1つの自社EC「マル直くん」だ。こちらのサイトでは低糖質の豆乳飲料など、ネット専用の高付加価値商品を販売している。「マル直くんには、ここでしか買えない商品を求める顧客がくる。既存商品を買いたい人とは顧客層がまったく異なるため、あえてサイトを2つに分けている」と営業統括部・特販営業室第一課の浅野悦子グループ長は言う。

マルサンアイは低糖質の豆乳飲料などをネットで直販する
マルサンアイは低糖質の豆乳飲料などをネットで直販する

 同社が低糖質商品に力を入れるきっかけとなったのが、大豆粉で作った麺商品「ソイドル」だ。「世間で糖質制限ダイエットが流行し始め、そうした商品をネットで検索する人が増えた。これを商機ととらえて、ネット部門が主導する形でソイドルを開発した」(浅野氏)。このソイドルは通常の麺類より糖質が90%以上も低い。自社の調査から、特定保健用食品の許可・承認などに関わる健康増進法の規定上でも、低糖質をうたえることが分かったという。

 しかし、ソイドルはまったく新しい商品。価格も1玉当たり200円超と高い。いきなり通常の流通で販売しても売れる保証はなかった。また同社初の麺類ということもあり、営業部門も麺類などを手がける流通の担当者との取引実績がなかった。そこで、テストマーケティング的に自社ECで販売することにした。

 低糖質に関するキーワードでの検索連動型広告やSEO(検索エンジン最適化)対策などで集客。3年で20万食を販売する実績につなげた。一定の成果を収めたことから、次に大豆粉を使ったパンを開発。8月には低糖質の豆乳飲料を発売するなど、矢継ぎ早に新商品を投入している。

 9月1日からはこの豆乳飲料の拡販を目指したキャンペーンを展開。6本1000円のお試し商品を期間限定で販売している。新規顧客を獲得し、今後メールマーケティングなどでリピート顧客へとつなげることを狙う。そうして、来年度の売り上げを前年度比で10%増加させることを目指している。

富士フイルムはテレビCM連動のネット広告を展開

 自社ECを展開するに当たって、どのような商品を販売するかは戦略上、極めて重要だ。だが、いくら良い商品を取り揃えても、その商品の認知を高めて、サイトに人を連れてこなければ購買にはつながらない。そこで、メーカーならではの広告宣伝手法や、新たな広告技術の活用も必要になる。

メーカーであれば、商品の開発背景やその商品に使われている技術、そして商品の特徴といった情報を潤沢に持っているはずだ。そうした情報を流通企業は持たないため、メーカーがうまく活用すれば、広告効果や、自社ECの付加価値の向上につながる。

 富士フイルムは化粧品ブランド「アスタリフト」を中心とした自社EC「ビューティー&ヘルスケアOnline」を運営している。当初は自社ECのみで販売を始めたアスタリフトだが、現在はさまざまな流通企業の、約8000の店舗でも売られるようになった。それでも売り上げの過半をまだ直販が占めるなど、自社ECの役割は今も非常に大きい。

 同社は6月にアスタリフトとしては初となる、技術に焦点を当てたテレビCMを放送した。これは、写真分野で培った技術によって、これまで防げなかった波長の紫外線をカットする技術を富士フイルムが持つことを伝えるもの。この技術を使って開発した美容液「パーフェクトUVクリアソリューション」の販売促進を目指した広告だ。まさにメーカーだからこそ持っている情報を活用して、商品の価値を伝えている。ところが、テレビCMの中に肝心の商品、パーフェクトUVクリアソリューションは登場しない。

 なぜなら、「薬事法などの関係から、技術を詳細に紹介するテレビCMでは、直接的に商品の紹介ができない」(富士フイルムの山口豊ライフサイエンス事業部長)からだ。では、どのようにしてパーフェクトUVクリアソリューションの販売に結びつけたのか。

テレビCMと連動したネット広告で売り上げを拡大した富士フイルム
テレビCMと連動したネット広告で売り上げを拡大した富士フイルム

 活用したのがネット広告だ。富士フイルムはテレビCMの放送時期に合わせて、ポータルサイト「Yahoo!JAPAN」上にテレビCMと同じクリエイティブを採用したディスプレイ広告を配信した。クリックすると、全画面に広告が広がるリッチ広告だ。また、同技術を検索した人を獲得するために、検索連動型広告も出稿。こうして、テレビCMで認知や興味喚起を促し、ネット広告で直接自社ECサイトに誘導した。サイト上では、商品の持つ機能を具体的に紹介して、購入を促した。

 その結果、自社ECサイトのアクセス数は広告出稿後に17倍に急増。パーフェクトUVクリアソリューションの販売数量も、テレビCMの放送前後で比較して、1.5倍に増加する成果につながった。

ブランドサイトとECサイトを統合

 広告の活用だけではなく、自社サイト上のコンテンツ強化にも踏み切った。富士フイルムは9月1日にビューティー&ヘルスケアOnlineを刷新。これまで分かれていたブランドサイトとECサイトとを統合した。「ブランドのことを知りたいと思ってサイトを訪れてくれても、購入の段階になると、別のサイトに遷移しなければならなかった。これでは利便性を損なってしまう」(山口氏)。新たなサイトでは、ブランドの情報をECサイトに統合。ブランドの世界観や商品の特性を伝えながら、すぐに購入できるようにした。

 また、今後は動画のコンテンツも充実させていく方針だ。手始めに9月1日に発売した美容液「アスタリフト ジェリー アクアリスタ」の開発の背景や活用している技術などを、動画で紹介した。動画を活用することで、ブランドに加え、商品への理解も深められる可能性がある。技術の解説や商品の利用方法など、半年以内に10個の動画をサイトに掲載し、コンテンツの充実を図る。

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