※この記事は、「【特集】究極の質問「NPS」は使えるか?(中編) 業界別ベンチマークの公表スコアが導入支援企業によって大差、指標にならず」の続きです。
疑問4:推奨意向とロイヤルティー 「CS低いが推奨」は危険!?
NPSは、「推奨意向の高い人は個人としても満足度が高く、今後もリピート購入・契約してくれる」という考え方で設計されている。確かに推奨意向とロイヤルティーの相関は十分に高いのだが、当てはまらない場合もあることは留意しておきたい。
では、それはどんなケースか。日本生産性本部(東京都渋谷区)のサービス産業生産性協議会(SPRING)が第三者機関として実施している、日本版顧客満足度指数「JCSI」の調査結果に、その一端が見える。同調査は、1.商品・サービスに対する期待値(顧客期待)、2.商品・サービスに対して感じるクオリティーレベル(知覚品質)、3.コストパフォーマンス(知覚価値)、4.満足度合い(顧客満足)、5.肯定的に人に伝えるか(推奨意向)、6.再利用意向(ロイヤルティー)の6つの指標について、計21の設問から各100点満点で指数化。年間30業種前後、約400の企業・ブランドを対象に、総計12万人以上の利用者からの回答を得て調査結果を公表している。
JCSIを実施するSPRINGの主任研究員・プロジェクトマネージャーの浅野太郎氏は、NPSが完成度の高い有用な指標であるとした上で、「推奨意向とロイヤルティー、満足度が比例しないケースはある」と認める。
右図を見てみよう。例えばスーパーマーケット業界では、顧客満足度トップのディスカウントスーパー「オーケー」がロイヤルティーでもトップに立っている。だが、全28社のランキングなので悪い数字ではないものの、推奨意向は6位とふるわない。格安がウリでコストパフォーマンスのスコアが高く、それが顧客満足とロイヤルティーの高さにつながっているが、積極的に人に薦めたくなるブランドかといえばやや異なる。このような立ち位置の会社は、推奨意向がトップではないことをことさら気に病む必要はないだろう。
それより問題なのは、推奨意向は高いのにロイヤルティーが下がってしまうケースだ。カフェ業界、エンターテインメント業界で不動の人気ブランドと見られている「スターバックス」「東京ディズニーリゾート(TDR)」にその兆候がうかがえる。
両ブランドとも、前々回の調査では顧客満足、推奨意向、ロイヤルティーともにトップの“三冠王”だったが、前回調査で顧客満足が2位に落ち、最新調査ではロイヤルティーも下がるという同様の推移をたどっている。TDRは入場料の値上げが毎年続いていること、スタバは競合他社が比較的安価な食事メニューを充実させたことで相対的に割高感が出ていることが、影響したと思われる。
人気ブランドにネガティブな反応が出始めているのに、NPSで問う推奨意向が高止まりしてしまうのは、NPSの弱点と言えそうだ。徐々に満足度とロイヤルティーが低下していても、強いブランド力があると人に薦める局面で名前が挙がりやすい。その意味でNPSは変化に対してすぐに変動しにくい遅行指標の側面がある。NPSを過信し、スコアが業界上位であることに安住していると、問題点の把握が遅れる可能性があることに注意したい。
疑問5:NPS代替案 ロイヤルティー向上の秘策
ここまで見てきたように、NPSの導入には、相応の覚悟と理解、結果を改善につなげる協力体制、自社にふさわしい指標であるかの見極めなど、事前に解決しておくべき要件が多く、早期の導入が難しい場合も少なくない。それでも、NPS視点に立った施策や考え方を部分的に取り入れて、改善していくことはできる。

分かりやすいのはFacebookページのシェア数の改善だ。無料の投稿はファン全体の十数パーセントにしか表示されないと言われる中、自発的にシェアしてくれるファンが多ければリーチを大きく伸ばせる。いいね!を押すが、シェアには遠慮気味な人が多いからこそ、シェアしたくなる投稿の追求は価値がある。
日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)のFacebookページは、ファン数が拮抗しているが、1投稿当たりのシェア数についてはANAがやや優勢だ。これはなぜか。ANAは、マイレージクラブのうち搭乗回数が少ないライト会員層および非会員を対象に、旅行需要とANAへの愛着喚起を目的に運営している。客室乗務員や機長、整備士などが登場する月曜朝から、美しい写真と「良い週末を♪」のコメントで締めくくる金曜まで、プログラムの流れをしっかり組んでおり、離着陸動画や飛行機のトリビアなどは多数シェアされる。シェアを増やす観点で参考になる運営方法だ。
NPSが自社に合うか。あるいはNPSだけを測ればよいのか。迷う場合は前述のJCSIにならって、顧客満足度、推奨意向、ロイヤルティーの3つを尋ねてみるのもいいだろう。JCSIのサイトに質問例が載っているので参考になる。

他にもロイヤルティーを測る指標はいくつかある。米タムキングループが調査、公表している顧客体験(CX)調査は、企業とのやりとりについて、「やりたいことを達成できたか(成功~失敗)」「容易にできたか(容易~困難)」「どんな感情を持ったか(感動~失望)」の3つの観点で各7段階評価してもらい、平均スコアを割り出す。
自社の経営課題とマッチする調査・設問内容を設計し、上がってきた声を解決しながら、定点観測を続けて改善を繰り返していけば、ロイヤルティーと推奨意向を業界トップクラスに高めることは決して不可能ではない。