※この記事は、「【特集】究極の質問「NPS」は使えるか?(前編) 「あなたはご友人に『NPS』をお薦めしますか?」、注目の指標に5つの"疑問"」の続きです。
疑問2:国際比較 世界一辛い日本人の採点
NPSが抱える課題の2つ目は、「日本企業のスコアが低く出やすいこと」(NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション リサーチ&CRM本部担当部長の熊谷賢一氏)。グローバル企業の日本法人にとっては受難の指標だ。

「日本人の採点は世界で一番厳しい」と苦笑いするのは、メットライフ生命保険(東京都墨田区)でNPSを主導するカスタマーセントリシティ部部長の瀧信彦氏。グローバルでNPSを推進するため選択の余地はないが、「NPSは他国と比較するものではないと、米本社はよく理解している。見ているのは前年からのスコアの伸び率、伸び幅」(瀧氏)という。
同社では、顧客にメットライフの推奨度を尋ねる「リレーションシップNPS」を年2回、それとは別に、新規契約時や契約内容変更時、給付金の手続き時など同社と接点のあった顧客に絞って尋ねる「トランザクショナルNPS」を随時、実施している。
生保はスコアが比較的低く出やすい業界の一つ。それでも「よろしければご友人やお知り合いをご紹介いただけませんか?」が定番の営業トークであるように、保険は推奨との相性がいい商品だ。「NPSが高い顧客ほど契約額が高く、紹介者も多い。銀行など他の金融と比べてもスコアと業績との相関が極めて高いので、取り組む意義は大きい」(瀧氏)。
NPSが低い顧客からの声としては、例えば外資系ゆえの撤退リスクが一定数上がってくるという。その懸念に対しては、同社が国内で40年以上にわたって営業していること、財務力格付けが「AA-」で国内トップであることなど、「会社の説明をしっかりすることで、相当に払拭できることが分かってきた」(瀧氏)。
こうした仮説と検証、そして個々人独自の営業手法で契約を獲得してくるコンサルタント(営業部員)に、データに基づいて顧客に説明してもらうことで、NPS向上にまい進している。2013年からNPSを導入し、批判者の割合を下げるための課題解決に注力してきた同社は、「今後は推奨者を増やす方向の施策にも取り組んでいく」(瀧氏)考えだ。
ちなみにメキシコのメットライフでは、NPS100(全員が9or10評価)という驚異的なスコアが出たことがあるという。特にグローバル企業では、採点傾向のお国柄を本国に理解してもらった上で、地道にPDCAを回していく根気強さが欠かせない。
NPSの値は、国によっても違うが、同じ国内でも業界によって大きく出方が異なる。テーマパークのようなエンターテインメント系ブランドは想像通り高いスコアが出やすく、前述の生保は低めになりがちだ。
疑問3:業界ベンチマーク 支援企業の値がバラバラ
では自社でNPSを測定して出てきた値は、果たして高いのか、低いのか。NTTコムとデジタルマーケティング支援のアイ・エム・ジェイ(IMJ、東京都目黒区)が、NPSの業界別ベンチマークテストを不定期でそれぞれ実施し、データを公表している。それを見ると、各業界とも一定のレンジの中で企業のスコアがバラつき、大手企業がトップスコアを挙げて業界をリードしているというケースが目立つ。
ただ、残念ながらこのベンチマークの値を鵜呑みにはできない。下図の通り、同じ業界を調査しているのに、NTTコムとIMJの示すスコアに大差がある。図中に示した10業種の場合、NTTコムが算出したベストスコア企業とIMJが算出したワーストスコア企業の値がかすりもしないほどかけ離れている。

例えば、実店舗型の証券会社の場合、NTTコム調査ではNPSワースト企業が-61.5、ベスト企業が-53.4と低いレンジにとどまるのに対し、IMJ調査ではワースト企業が-22、ベスト企業がプラス1。同じ業界とは思えないほどの大きなズレだ。
生保についても、NTTコム調査ではワースト企業が-71.4、ベスト企業が-46.8なのに対し、IMJのワースト企業は-18、ベスト企業はプラス23。これでは、自社が生命保険会社で、算出したNPSが-30だったとしたら、ベスト企業なのかワースト企業なのか判断がつかない。「-30からの改善幅が重要」と言われても悶々としてしまう。
両社とも「調査対象となる企業が一致していない」ことをズレの一因として挙げる。だが両社ともネットリサーチ会社のモニターを対象に実施し、例えば生保なら自分が契約している保険会社について11段階で推奨意向を回答しているため、基本的に契約者数が多い大手の保険会社が調査対象となっている。完全に一致はしなくても主要な顔ぶれは同じはずだ。それでいながら、これほどレンジがズレるのは理解に苦しむ。
調査の規模としては、IMJが15業界136社を対象に有効回答数4万3824人。NTTコムは21業界140社を対象に同1万3521人。IMJの方が1社当たりの回答数は3倍以上多く、十分なサンプル数で実施している。

一方で、IMJの生保のNPSベンチマーク調査は、2013年8月と2015年3月を比較すると、ワースト企業が-43から-18へ、業界平均スコアが-26から-5へと業界全体が劇的に改善したという結果になっている。こちらも調査対象の生保が完全に同一ではないとはいえ、2年半の間の変化としては振れ幅が大きすぎる感が否めない。ちなみにNTTコムが2014年12月と2016年6月に実施した生保のNPSベンチマーク調査では、ワースト企業が-71.4から-69.3へ、業界平均が-57.1から-53.4へと推移した。
いずれにしても、これほどスコアが乖離していてはベンチマークの役目を果たせない。NPSの導入を検討している企業を惑わせ、NPSの信頼性にも傷をつけてしまう。調査主体によって、国内主要業界のNPSベンチマーク調査の値がブレすぎないよう、導入支援企業の努力を求めたい。