消費者の間で“評判”が重視される今、推奨意向を尋ねるNPSは重要指標になりつつある。その一方、NPSの抱える課題も見えてきた。それらをどう解決すべきか考えた。

 「情報過多で探し疲れ、それでも評判は気になる」──。本号10ページ「データは語る」で、日本の消費者の購買行動モデルが不透明になっていることが明らかになった。

 商品購入検討者は、発売元のサイトのみならず、価格比較サイトや商品レビューを通じて企業に都合の悪い評判まで含めて情報を収集し、自分に最適な商品を吟味して最安値に近い店舗で購入する──。ネット時代の到来とともに、そんな“賢い消費者”が登場したはずだった。

 ところが、今やネット上の情報は増え続けて情報収集にキリがなくなり、レビューサイトには“ステマ”の懸念も絶えなくなった。SNSに流れてくる「リアルで信頼できる知人」が漏らした感想の方が信じられる、と思うのも無理はない。かくして、推奨意向を尋ねて顧客ロイヤルティーを測る「NPS」(ネットプロモータースコア)が、以前にも増して重要な指標になったと言えるだろう。

「NPS」とは、0~11の11段階評価で推奨意向を問い、9~10と答えた推奨者の割合から0~6と答えた批判者の割合を引いてスコア化したもの
「NPS」とは、0~11の11段階評価で推奨意向を問い、9~10と答えた推奨者の割合から0~6と答えた批判者の割合を引いてスコア化したもの

 一応復習しておこう。NPSでは、「この商品・ブランドを友人や同僚にお薦めする可能性はどのくらいありますか?」という推奨意向を問う質問をして、0(全く推奨する可能性はない)から10(強く推奨したい)の11段階で回答してもらう。そして0~6を批判者、7~8を中立者、9~10を推奨者と3分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数字が、その企業(製品・ブランド)のスコアとなる。

 顧客に満足度を問う顧客満足度(CS)調査では、「満足している」と回答した顧客が直後に他社に乗り換えてしまうケースが少なからずあった。これに対し、NPSでハイスコアなブランドは顧客のロイヤルティーも高く、業績との相関が強いことが、経営指標として重宝されてきた。

 ファン向けのイベントや投稿企画などを展開するアンバサダー施策では、NPSを効果測定に利用するケースが増えている。そうした活用経験から、単にキャンペーンの効果測定にとどまらず、重要な経営指標として、NPSを定点観測していく機運が高まり始めているところだ。

 ただし、NPSの質問はシンプルだが、経営指標の1つとして導入するのは簡単ではない。本特集では、NPS導入を検討する際に直面する課題・疑問を5つのポイントから考察していく。

疑問1:推奨のカベ マイナススコアが普通

 試しにNPSを算出した場合、多くの企業は自社のスコアの低さに衝撃を受けるだろう。CSではそれなりに高い満足度を得て、同業他社と比べておもてなしに特に不備はない企業でも、冷徹な結果を突き付けられる。

 低スコアになる要因は大きく2つ。1つは、「推奨」という行為のハードルの高さだ。個人差が大きい領域だが、納得して購入したブランドであっても、知人にそれを薦めるには一定の責任感を伴うもの。自分からは推奨せず、考えを聞かれた場合にのみ答える人も多いだろう。

ソーシャル接触者でも「推奨」はハードルが高い行為
ソーシャル接触者でも「推奨」はハードルが高い行為

 本誌は、企業が開設・運営するソーシャルメディアのアカウントから人気の高い100社・ブランドを選定し、それらを登録・閲覧していると答えた「ソーシャル接触者」を対象に、アンケート調査「ソーシャル活用売上ランキング」を毎年実施している。

 2016年調査で「知人に商品・サービスを薦めた」人の割合を尋ねると、トップの企業アカウントでも該当者は10%がやっと。「購入・利用した」人の割合はトップクラスのアカウントなら3割近いのに、だ。ちなみにハーゲンダッツのリピート購入者は、同アカウント接触者の10.3%も存在するが、ハーゲンダッツを知人にお薦めした人は7.2%と1割を切ってしまう。全100アカウントの第5位でこの水準だ。尋ねるのは推奨「意向」であるから実際に薦めていなくても構わないとはいえ、やはりハードルの高さは否めない。

 低スコア要因の2つ目は、通常の5段階評価なら4(やや満足)を付ける人でも、0~10の11段階では採点が割れ、NPS計算式では多くが批判者に回ってしまうことだ。

 かつて日本アイ・ビー・エムでCS部門の部長を務めた浅野紀夫氏が、ある製品について同じ回答者に5段階と11段階のCS調査を実施した結果を自著に記している。それによると、5段階で平均3.4の評価が11段階では6.6だった。つまり、段階を2倍以上に増やしても、それに伴って評価も2倍以上にはなりにくいのだ。

そこそこの満足度では、NPS型の計算式なら大幅マイナス
そこそこの満足度では、NPS型の計算式なら大幅マイナス

 これはなぜか。内訳を見ると、5段階で最低の1を付けた人は11段階では3を、5段階で2を付けた人は11段階では4か5を付けた人が多かった。5段階で低い評価を付けている人は、11段階になると評価が甘めになる。

 一方、5段階評価の4を付けた人の8割は、11段階になると7か8を付ける。この人たちはNPSでは中立者扱いだ。残りの2割を見ると、11段階評価で9以上を付ける評価者よりも6以下を付ける評価者の方が2倍超も多い。5段階で3以上、特に4を付けた人が11段階評価で辛めの採点をする結果、NPSのスコアをマイナスに引っ張ってしまうわけだ。

11段階の評価「1」に愕然としたが…

 そしてこれは、あくまで従来型のCS調査を11段階で尋ねたもので、推奨意向を尋ねたものではない。推奨ならばこれより1ないし2、低い評価をする人が出てくるのが普通で、多くの企業がNPSでマイナススコアを取るのも致し方ない。NPSを導入するならば、この厳しいスコア傾向を真摯に受け止め、心折れずに改善に取り組む度量が必要だ。

 グループウェアを提供するサイボウズでは、2013年から従来型のCS調査と並行してNPSを導入している。機能的な満足度だけでなく、企業に親しみや愛着を持ってもらえているか。これが継続率に影響していると考え、NPSにたどり着いた。

 現状はスコア目標より、調査対象顧客をライトユーザー層まで広げることで、スコアが下がっても多様な意見を聞くことを重要視している。今年の8月、NPSで1という回答があり思わず頭を抱えたが、その理由は「良いものは他社には紹介したくない」だったという。NPSこぼれ話といったところだが、数字よりもその理由をしっかり把握することが大事というエピソードでもある。