■【連載】デジタル・トランスフォーメーションの本質を読み解く

デジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏が、デジタル・トランスフォーメーションの本質を解説する新連載。第1回は、デジタルマーケティング専門組織を設ける企業が増えているこの国の現状に、切り込む。

 筆者はデジタルマーケティングに関わる組織コンサルや人材育成コンサルをしているが、最近とみに、「デジタルマーケティング本部を作りたい」といった話を聞くようになった。デジタルテクノロジーへの対応強化などが発端になっているようだ。

 デジタルに関しては、やや特殊なスキルや知識が求められるため、専門の部署を作らねばならないという発想であろう。デジタルに、社内の人材では対応できないという妙なコンプレックスがあるようにも感じる。そのため、社外から人を採用して「外人部隊」で組織を編成しようと考える企業も多い。

デジタル専門組織を「出島」にしてはならない(提供:akg-images/アフロ)
デジタル専門組織を「出島」にしてはならない(提供:akg-images/アフロ)

 こうした経緯で設置された「デジタルマーケティング本部」のことを、私は「出島」と呼んでいる。デジタルマーケティング本部、略して「デジマ」は、まさに江戸時代に長崎に設けられた出島のような存在に見えるからである。デジタルという「エイリアン」のようなものと接する場所を一部の組織・エリアに限定して、本丸であるマーケティング組織は従来のままでよい、と言っているように思える。

 これではだめだ。マーケティングの本丸からデジタルを切り出す格好となり、肝心なところはアナログなままになってしまうからだ。

 実際のところ、「デジタルマーケティングという特殊なマーケティング」が存在しているわけではない。デジタル社会の到来で、企業は、デジタルテクノロジーを駆使する組織になる「デジタル変革」(デジタル・トランスフォーメーション)が求められている。必要なのは、その企業にとって、マーケティングとは何かを再定義すること。そして、それを全社員で共有することであって、出島のような組織を設けることではない。

 筆者は『トリプルメディアマーケティング』という書籍で、「企業のマーケティングメディアを、POE(ペイドメディア・オウンドメディア・アーンドメディア)に整理し直そう」と提唱した。このPOEの考え方は今や広く普及しているが、その延長線上で、マス・リアル(テレビなどのマス領域と非デジタルの領域)を対象としたマーケティングと、デジタルマーケティングとを分離することなどは、まったく念頭になかった。

現場主導のデジタル化は限界

 デジタル化する必要があるのは、広告・マーケティングの本丸であって、デジタルを専門部隊として切り離すことは、マーケティングのデジタル化に、全くもってそぐわない発想である。どうして、こういう発想や行動になるのかと言うと、経営者がデジタル化の方針を示さずに、現場任せにしていることが大きい。

 日本の企業は現場の適応力が高い。Web施策やソーシャルメディアなどへの対応も、経営者が全くよく分からない中で、現場の人間が一生懸命に勉強して、対応してきた。トップが言うのは、「うちはデジタルはやってるのか?」といった、「同業他社に遅れるのだけは困る」という投げかけだけである。

 そんな形で何年もやってきたが、もうそろそろ、現場が引っ張るのは限界にきている。これ以上、現場主導のデジタル対応が進めば、「部分最適」になり過ぎて、「全体最適」にとって逆効果になる。ここから先は、トップダウンがどうしても必要だ。

 何度も言うが、デジタルマーケティングという特殊なマーケティングがあるのではない。「マーケティングがデジタル化する」のであって、それぞれの企業がデジタル化に伴って、マーケティングを再定義する必要があるのだ。そして、その再定義は、社長が自らしなければならず、その結果を全社員と共有することが必要だ。そして経営企画部(室)などは、この動きをサポートすべきであろう。

人材の「スキルセット」を定義せよ

 もう1つ、大きな問題は、デジタルマーケティングを担う人材の「スキルセット」を具体的に定義していないことだ。スキルセットという中身を議論しないで、箱だけ用意するのはナンセンスである。どんなことができる人がそこで活躍するかを考えずに、外部から人を呼んできて、任せてしまおうというのは乱暴だし、危険な行為だと言える。結局、マーケティング活動の幹の部分は少しもデジタル化せず、枝葉をデジタル施策で化粧することに終始している企業が多いのではないか。

 こうした事態の責任は、経営トップにある。経営トップが、デジタル変革の本質を理解していないこと自体がリスクであって、付け焼刃のデジタル施策を促すだけで、やっているつもりになっているのは、もっとリスキーだ。

まだ顧客化していない、顧客なのに管理・把握できていない人をIDやクッキーベースで管理することで、新たなターゲットセグメントを作り、ニーズの発見とコミュニケーションの最適化を実現する
まだ顧客化していない、顧客なのに管理・把握できていない人をIDやクッキーベースで管理することで、新たなターゲットセグメントを作り、ニーズの発見とコミュニケーションの最適化を実現する

 デジタル組織は、あくまで戦術部隊であって、戦略を考えるのは仕事ではない。また広告・マーケティング部門の中に置かれて、すべてのマーケティング施策に関わる必要もある。経営トップや、トップを支える経営企画などの方々は、早急に「デジタル変革」に伴うマーケティングの再定義を実施し、全社員に宣言すべきだ。その戦略があって初めて、マーケティングのデジタル化のための組織編成と、人材のスキルセット、評価軸、KPI(重要業績評価指標)が決まるのである。

 デジタルシフトの1つの形として、「インハウス・マーケティング・ラボ」や「イノベーション・センター」などと呼ばれる組織を社内に設けることがある。消費者のデータの分析などをDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用することで事業横断的に実行する組織のことで、私から提言することもある。うまく活用できれば有効な組織形態なのだが、「またコストセンターを1つ作るのか」などと捉える経営者が少なくなく、あまり導入は進んでいない。やはり、デジタル変革の本質が分かっている人が必要になる。

 そうした意味で、「テクノロジーと人材を買う」ことをトップに迫ることも、1つの選択肢だろう。欧米では、「インハウス・マーケティング・ラボが、テクノロジー企業を買収する」ことが頻繁に起きている。すでに一定以上の売り上げと実績を持つテクノロジー企業を買って、「自社を動かす」のである。

 次回は、デジタル変革を進めるために、どのような「事業イノベーション」が必要になるのか。米ウォルマートなどの事例から、経営トップの問題としての「デジタル変革」を深掘りしていく。