九州旅客鉄道(JR九州)が、列車のネット予約比率の向上策に力を入れている。特に注力しているのが、スマートフォンへの対応だ。同社が2016年3月から提供を始めた、スマートフォン向けアプリ「JR九州アプリ」はダウンロード件数が10万に迫り、ネット予約に占める比率も16%に達している。スマートフォン全体では、既にネット予約の6割強を占めている。将来的には、現状9%程度にとどまる列車予約全体に占めるネット経由の割合を、20%超にまで高めることを狙う。

JR九州がネット予約比率の向上を急ぐのは、顧客理解を促進し、さまざまなマーケティング施策に生かすためだ。「福岡県民にアンケートを取れば、半数は1年間に1度も駅にすら行かないと回答する」と鉄道事業本部の森亨弘営業部長は言う。この列車に乗らない層に関心を持ってもらうには、より魅力的なプロモーションを仕掛ける必要がある。
ところが、森氏が2年前に営業部長に就任して感じたのは、「鉄道事業では乗客との接点が薄く、属性などが全く分からないことだった」(森氏)。より効果的なプロモーションを実施するには、ターゲット層の設定や、その層に響くプロモーション設計などの仮説立てが重要だ。顧客属性が分からなくては、こうした仮説も立てにくい。そこで目を付けたのがネット予約だ。ネット予約であれば会員登録時に性別や年代といった情報を取得しているため、乗客の層が把握できる。つまり、ネット予約比率を高めることで、より顧客理解を進められると考えた。
毎日使いたくなる仕組み
こうして新たに開発したのがJR九州アプリだ。ネット予約比率を高めるためにWebサイトを強化する中、急増してきたスマートフォンからの利用をより便利にするために、列車の予約が可能なアプリを開発した。ただ、列車を頻繁に予約する人はそれほど多くはない。予約機能だけではアプリとの接点が薄い。そこで利用頻度を高めるために、ゲーム的な要素を機能として搭載した。
アプリを利用することで取得できる「スタンプ」機能はその1つ。毎日、続けてアプリにログインしたり、アプリ経由で列車を予約したりすることで、犬をモチーフにしたJR九州のキャラクター「くろちゃん」や列車の電子スタンプが集められるものだ。
また、1日1回だけボタンを押すことができるのが「トリップメーター」機能。このトリップメーターは1回押すごとにメーターがたまり、100%になるとポイント「JR九州eレールポイント」やスタンプを取得できる。JR九州eレールポイントは、ためることで旅行券と交換したり、「Ponta」や「Tポイント」といった共通ポイントに交換したりできる。
こうしたゲーミフィケーションの要素を取り入れることで、ダウンロードした人のうち10%超がアプリを毎日利用しているという。仮に予約機能だけのアプリであれば、必要な時にしか利用されず、これほど高い割合は維持できなかっただろう。
こうした機能によって毎日利用してもらいながら、列車予約時にはスタンプやポイントを付与して、アプリで予約する動機付けも用意した。その結果、提供からわずか半年でアプリ経由の予約比率が16%という成果につながった。