ドラッグストア大手のマツモトキヨシホールディングス(HD)が、今年7月からオムニチャネル戦略を加速している。
それまで独立していた事業子会社マツモトキヨシの公式サイトとEC(電子商取引)サイトとを1つに統合。約7万点に及ぶ取り扱い商品を、サイトからカテゴリ分類やキーワード検索などによって、すべて見られるようにした。また会員が獲得したポイントや、ネットと店舗での購入履歴などが確認できるマイページ機能を追加した。

まずは2000数百万人いるリアル店舗会員や、利用はあっても会員登録していない顧客に、公式サイトか、サイトと連係させたスマートフォン用アプリから新たに会員登録してもらうことを促す。そのうえで、会員のサイト上の閲覧履歴データなどを把握。サイトのマイページやアプリのプッシュ配信機能などを通じて、購入につながると思われる商品情報や割引クーポンなどを配信。リアル店舗への来店を促していく。
マツモトキヨシHD経営企画部次長でオンラインビジネスユニット シニアユニットマネージャーである松田崇氏は、取り組みの背景について語る。「これまではハガキによるDMでしか来店を促せなかった。今後は、会員が来店する前に(購買履歴や頻度などのデータから)最適なタイミングで接触し、リアル店舗に行こうと思ってもらえるようにしたい。その(データを蓄積する)ためにも、サイトやアプリの登録会員を増やしていく」。
公式サイトやアプリでの会員登録を促すメリットも用意した。会員がよく利用するリアル店舗をマイページ内に登録すると、その店舗の在庫状況と販売価格がリアルタイムで確認できる。一部の店舗では商品の取り置きや取り寄せもできるようにした。
リアル店舗のポイントをECサイトのポイントと統合して、使いやすくしたが、ECサイトはあくまでもリアル店舗の補完と位置づけている。近くにリアル店舗がなかったり、雨天で店に行きにくかったりという時にECサイトを使ってもらうことを想定している。
松田氏は「7月1日のサービス開始から、サイトやアプリから登録する会員は増えており、手応えはよい」と語る。「サイトやアプリから登録した会員は、最初はよく行く店の在庫や価格を確認し、次いで欲しい商品の取り置きや取り寄せサービスを利用するようになるのではないか」(松田氏)という。
もっとも、2000数百万人のリアル店舗会員が、すぐにサイトやアプリの会員に移行するとは見ていない。高齢者の一部などは移行しないだろうと見ており、これらの会員には従来通りのアプローチを続ける。「現在、アプリのダウンロード数は約230万。リアル店舗会員からの移行を含め、サイトやアプリから登録する会員500万人が当面の目標になる」と松田氏は語る。
「マイストア」以外へも誘導
登録会員を増やした後には、データに基づいた精緻なマーケティングで、会員1人当たり売上高を引き上げることを目指す。そこで、会員のネット上の行動履歴や購買履歴などを分析し、この会員はこんなタイミングでこんな商品を購入するだろう、というパターンを見いだそうとしている。
「リアル店舗で既に年額10万円を使ってくれている会員に11万円使ってもらうことよりも、データの分析で10万円購入していただける余地がありそうだが、年に3万円しか購入していないような会員を見つけ出し、さまざまな施策で購入頻度や金額を高めることを目指す」(松田氏)考えだ。
また、サイトと店舗との利用パターンなどに基づいて「よく利用する店だけではなく、通勤途上などにある別の店舗での購買を働きかける施策なども検討していく」(松田氏)。マツモトキヨシHDの店舗は店舗面積や立地が多様で、店舗数も多い。繁華街ばかりでなく郊外の住宅地にも出店しており、自宅や勤務先の最寄りばかりでなく、他の店舗へ誘導することも比較的しやすい。競合するドラッグストアにない広範な立地という強みを、将来は生かす腹づもりだ。
「一定の成果を上げるまでには2年必要」(松田氏)と慎重な姿勢ながら、独自のオムニチャネル戦略で着実に成果を上げることを目指す。