「何を言っても『嘘でしょ』と言われ、赤字でお金もなかった」。2015年、日本マクドナルドに足立光氏(上席執行役員マーケティング本部長)が入社した当時、どん底にいた同社は、この2年でV字回復した。そこからどのように復活したのか。「ソーシャルとPRをコミュニケーションの中心にしようと、トップダウンで転換したことが奏功した」と、足立氏は話す。
どん底だった当時でも、同社のメディア力は大きかった。月間1350万アクティブユーザーをかかえる公式アプリや、1日の来店者数150万人以上の実店舗など自社メディアのほか、マスコミからの注目も常に高かった。足立氏はこれを生かし、話題を創出してきたという。
「ハンバーガーは食べなくても生きていけるため、買いに行く理由がいる」と足立氏。新商品をメディアが報道したり、友人がSNSに投稿したりしていると、「はやっている」と感じ、行く理由になる。
マーケティング本部のKPI(重要業績評価指標)として、従来からの「売り上げ」「来店客数」に、発売前1週間のバズ(話題)の量「プレバズ」を追加し、発売前の話題の盛り上げに注力した。
プレバズと発売初週の売り上げは「ほぼ相関がある」ためだ。発売前にはプレスリリースを出し、PRイベントを行い、メディアキャラバンを行い、Twitterキャンペーンを実施し、バズ用に先行発売して、最後にテレビが入る、という流れで話題を創出する。
「裏メニュー」や「総選挙」で話題拡散
例えば「裏メニュー」企画。通常とは異なるトッピングを乗せたレギュラーメニューを「裏メニュー」と名付け、裏返しの文字でメニュー名をアピールしたところ、Webだけで400以上のメディアに掲載された。また、タレントのダンディ坂野さんが「謎の怪盗ナゲッツ」に扮するキャンペーンは、明らかに坂野さんと分かるポスターデザインで、「謎じゃないだろ!」とツッコミを呼び、話題が広がった。
消費者参加型キャンペーンもヒットした。新作バーガーの名前募集企画には、2週間で500万件もの応募が集まったほか、レギュラーメニューの人気投票「マクドナルド総選挙」は1億9000万以上も得票があった。総選挙ではテレビCMも出稿したが当初1週間のみに絞り、その後はTwitterとネット動画で拡散。多数のメディアが記事にし、売り上げは目標の6倍超に上ったという。「話題化すればマス広告を使わなくてもかなりの認知が取れる」と足立氏は手応えを語る。
Twitterを使ったキャンペーンは「面白さも大事だ」という。「チキンタツタ」「チキンタルタ」のキャンペーンでは、「タ○タ」の「○」部分が変わるルーレットで遊んでもらい、結果に応じて面白い動画が見られたり、商品券がもらえる仕掛けにした。「最近は500円・1000円程度では何もしてくれない。面白いことが起きるなら、やろうと思ってももらえる」と足立氏。
他社とのコラボにも力を入れる。シェイク商品ではカルピスやミルクキャラメルなど他社の有名商品とコラボ。味のイメージがわきやすい上、コラボ先も宣伝してくれて話題が広がりやすくなる。スマートフォンアプリ「ポケモンGO」の世界初のコラボ相手になったことで、「マクドナルドに全く興味がない人も、すごい勢いで来た」という。
同社のキャンペーンは「400ぐらいのWebメディアと、10以上のマスメディア」がターゲット。メディアを通じて「Yahoo!ニュース」「LINE NEWS」のトップや、Twitterの「トレンド」に載ることも狙っており、限られた見出しの文字数に入るよう、商品名は5文字程度に短縮した。パッケージも写真映えを意識したデザインに変更。月見バーガーは月とウサギにするなど、写真に撮ってSNSにアップしたくなるようなデザインを採用した。
同社は以前、Twitterに加えInstagram、Facebookも活用していたが、Twitter1本に絞った。InstagramやFacebookはなかなかシェアされず、「拡散しない」と判断したためだ。
「デジタルをマーケティングに活用するには、デジタルという言葉を使わないことだ」。足立氏は逆説的に言う。デジタル活用が当たり前になった今、「デジタルはすべてを指してしまう。逆に言えば、何も指していないに等しい」ためだ。デジタル専門部署はあえて設置せず、マーケティングを担当する全員が常にデジタルを意識するよう改革してきたという。ただ、「デジタルを意識しろとかけ声をかけるだけでは説得力がない」と考え、足立氏自身、SNSを積極的に使っている。「まず自分がデジタル化するのがとても大事だ」。