京都と大阪を結ぶ京阪電気鉄道などを傘下に抱える京阪ホールディングスが、データを活用したマーケティングに積極的に取り組み始めている。

 鉄道事業を中心に据えてビジネスを展開してきたが、人口減が進展する中、鉄道事業に頼っていては長期の展望は描けない。そこで、流通や不動産、レジャーなどを担う、鉄道事業以外のグループ会社でデータを活用したマーケティングを推進し、グループ全体の収益力を引き上げることを狙っている。

3種類の利用データを組み合わせて分析

 京阪ホールディングスがグループ内で蓄積しているデータは3種類ある。まずは、「おけいはんポイント」。これは百貨店や飲食店といったグループの施設を利用した際に付与するグループ共通ポイントである。グループ共通の「e-kenet(イー・ケネット)カード」の会員IDを通じて、グループ内のどの施設をいつどのように利用したかという利用履歴データを把握している。年間約3500万件集まるという。

 もう1つは、交通ICカードによる駅などの利用データだ。スルっとKANSAI協議会が展開する「Pitapa」準拠のICカードで、顧客がどの駅で乗り降りしているかを把握している。こちらは年間約5700万件になる。

 そして最後が、クレジットカードの利用データだ。カード会社と組んで提携カードを発行し、業務を委託する形ではなく、グループの京阪カード(大阪市中央区)がイシュアーとして自社でカードを発行しているため、「カード会員の詳細な利用データが分かる」(京阪ホールディングス経営統括室事業推進担当の清水裕介課長)のが強み。グループの外での利用も含め、会員の購買履歴を年間約1200万件分、把握している。

クレジット機能付きe-kenetカードとPitapaカードの2枚組で会員に提供する。会員数は約20万人。e-kenetカード単独で利用する会員は約6万人
クレジット機能付きe-kenetカードとPitapaカードの2枚組で会員に提供する。会員数は約20万人。e-kenetカード単独で利用する会員は約6万人

 Pitapaカードとクレジット機能付きe-kenetカードの2枚組カードを持つ会員の場合、e-kenetカードのIDに3つのデータをすべてひも付けて把握できる。2枚組カードの会員数は約20万人。クレジット機能付きe-kenetカードだけを持つ会員が約6万人、クレジット機能のないe-kenetカードを持つ会員も約24万人いる。

 京阪ホールディングスではこれら3種類のデータを組み合わせ、グループ会社がまだ実現できていないマーケティング施策を企画し、実施を各社に働きかけている。

 2016年2月には、京阪本線沿線にある守口市駅の高架下にあるグループ会社運営の飲食店街と、駅の東側にある京阪百貨店内の飲食店の間で、おけいはんポイントを使った相互送客キャンペーンを実施した。ポイント利用データと購買履歴を分析した結果、双方の店を利用する客は少ないことが分かった。そこで両施設で、それぞれ1店ずつ利用した会員には、おけいはんポイントを200ポイント分プレゼントする企画を展開し、双方の店の利用を促したのだ。

 その結果、高架下の店の利用客数は前年同月比で8.7ポイント、百貨店内の店の利用客も同4.9ポイント、それぞれ増加した。「キャンペーン期間中の平均客単価もそれぞれ3~4%アップした」(清水氏)という。「同一行動エリアの中でグループ内の別の店の存在を認識してもらい、将来の利用につなげる成果が上げられた」と清水氏は語る。

ゴルフ場の男性利用客をショッピングモールに誘導

 2016年秋には、類似の送客キャンペーンを、沿線にある樟葉駅周辺でも実施する。

 樟葉駅の東側にはグループが運営する大型ショッピングモール「くずはモール」が、西側の河川敷にはグループが運営するゴルフ場がそれぞれある。ゴルフ場の利用客のデータを分析すると、年配の男性3~4人組が朝から電車でやってきてゴルフを楽しみ、14~15時頃にはゴルフ場を出て駅周辺で一杯飲み、19時頃に駅から帰路につくというパターンが多いことが分かった。しかし、「ショッピングモールは年配の男性グループにとってハードルが高い」(清水氏)こともあり、ショッピングモール内の飲食店を利用することはほとんどない。

大型ショッピングモール「くずはモール」でも、おけいはんポイントを活用した送客キャンペーンを実施する
大型ショッピングモール「くずはモール」でも、おけいはんポイントを活用した送客キャンペーンを実施する

 一方、モール内の店から見ると、夕方に来店してアルコール込みで飲食し、19時前に店を出るグループ客は、「通常は閑散としている時間帯に、高い客単価が見込める優良客」(清水氏)。そこで、ゴルフ場の利用客に対して、ショッピングモール内の飲食店を利用した場合におけいはんポイントを付与するキャンペーンを展開する計画だ。

 データを活用したマーケティングに積極的に取り組み始めた京阪ホールディングスだが、課題も少なくない。まず実際に施策を担当するグループ各社が保守的で、データ活用について慎重だ。2015年からは、グループの担当者が集まる会議を毎月開催し、京阪ホールディングスの担当部署のスタッフが、グループの17~18社を毎月個別に回ってデータ活用を働きかけている。

 「訪問回数は2015年度は延べ102回、2016年度はそれ以上」(清水氏)になる。にもかかわらず、現時点ではグループ各社がホールディングスからの提案を受け、データを活用した施策に踏み切るのは、提案案件の1割ほどにしかならない。「成功を積み重ねて、採用される割合を引き上げ、ゆくゆくはグループ各社が独自にデータドリブンマーケティングに取り組むようにしたい」と清水氏は言う。

 もう1つの課題は、「沿線外に居住していて、通勤通学などの目的で京阪線を利用する顧客の動きを詳しくつかむこと」(清水氏)だ。京阪電鉄を利用しながらまだグループ会社の収益に貢献していない顧客の“取り込み”を狙っている。「具体策はまだ決定していないが、優先順位を高めて検討していく」(清水氏)という。

この記事をいいね!する