新たな動画メディアや、分散型メディアという新概念の登場で、動画広告市場がいよいよ本格的に拡大し始めている。こうした中、広告主企業側も活用の機運が高まっていることだろう。だが、活用する上で、動画広告の指標作りに悩む企業は少なくない。

 「テレビCMに比べると、さまざまなデータを取得できてしまうので、何の数値を指標に設定すべきかが課題となった」。こう振り返るのは、求人広告大手のアイデム(東京都新宿区)東日本事業本部の岡安伸悟マネージャーだ。

 同社は動画広告の活用に注力している一社。これまで投じていたテレビCMの予算をネットの動画広告に大幅に振り向け、一時期はすべての地域でテレビCMを取りやめるほどだった。現在でもブランディングにおいては、ネットの動画広告が主力施策だ。その動画施策の効果を高めるために、指標作り並びにさまざまなデータの分析に取り組んでいる。

 では、アイデムがテレビCMから、ネットの動画広告へと予算を振り向けた理由は何か。岡安氏は「テレビCMでは、どれだけ良いクリエイティブを作っても、結局はGRP(延べ視聴率)をどれだけたくさん出せるかという資本の勝負になってしまっていたから」と説明する。実際、アイデムは従来、テレビCMの出稿量にメリハリをつけ、ある時期に集中投下的にスポットで放送していたという。これに対し、競合相手である求人最大手のリクルートは常にテレビCMを放送しており、継続的に視聴者との接点を作っていた。結果的にはリーチできる母数で、大きく差をつけられていた。

新規率を主な指標に設定

 アイデムには、常にテレビCMを放送できるほどの広告宣伝費はない。リーチを取りながら、継続的なアプローチも同時に実現する。それには従来の戦い方はそぐわない。そこで目をつけたのが動画広告だった。「スマートフォンの普及によって、誰でも気軽にスマホで動画を見るようになっている。電車内の交通広告も展開しているが、車内では皆、スマホを見ている。ここにアプローチしていかなければならない」(岡安氏)。また、「これからの時代、テレビ以外のコミュニケーションが必要になる」という経営層の判断も、動画広告の活用を後押しした。

 こうして動画広告を活用する機運が高まっていったが、活用する上で何を指標にすべきかが、最初の課題となった。「視聴回数や視聴時間をGRPに換算することも検討したが、(プラットフォームを変えたにもかかわらず)従来の指標を使うのはナンセンスだからやめようと判断した」と岡安氏。とはいえ、視聴回数が数百万に及んだ場合、社内での反響が大きかった。そこで、社内的には視聴回数を指標とし、施策を実行する部隊では、新しい見込み顧客にどれだけ到達できたかを示す「新規率」を主な指標に据えた。

 この新規率を高めるため、主な動画広告プラットフォームを対象に、視聴者の重複率の分析にまず取り組んだ。視聴者が重複しているプラットフォームに同時に配信しても、新規率の向上が見込めないためだ。具体的には、動画投稿・共有サービスの「YouTube」や「ニコニコ動画」、その他の動画メディアなどを、Fringe81(東京都港区)の第三者配信サービス「digitalice」を用いてCookieを軸に分析。視聴者の重なりを明らかにした。その結果、重複率は全体で20〜30%程度にとどまることが分かった。

美容動画を閲覧するのは男性が過半

 さらに、次の段階として、2015年11月から2016年3月にかけて、各プラットフォームのターゲティング精度の分析にも取り組んだ。最初の分析によって、多少の重複はあっても、新規の見込み顧客にきちんとリーチできていることが分かった。その中から、さらにターゲット層に正しく当たる媒体を分析するためだ。というのも、ターゲティング広告は、消費者のWebサイト上の行動などさまざまなデータから推測しているため、必ずしも正確にターゲットに届くとは限らないからだ。

5月から新たな動画広告キャンペーン「シャーロックンロール・ホームズ」の展開を始めた
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 分析には、調査会社ニールセン(東京都港区)の提供する広告分析サービス「ニールセン デジタル広告視聴率」を利用した。これは、Facebookの会員情報を活用したもので、広告に触れたCookieをFacebookの会員情報と当てて、属性情報をFacebook側から取得するもの。Facebookのデータを用いることで、より精緻にターゲットの属性を分析できる。

 本調査ではYouTube、楽天のDSP「楽天DSP」、そしてフリークアウトのDSPで配信して、ターゲット層にきちんと配信されたかどうかを分析した。

 まず、グーグルの動画広告サービス「TrueView」を使い、18〜34歳の女性をターゲットに設定してYouTubeに広告を配信した場合、ターゲット層に到達したのは全インプレッションのうち59.61%だった。また、同様の条件で18〜34歳の男性をターゲットにした場合は同71.38%となり、男性を狙ったほうがきちんとターゲット層に広告が届くことが分かった。

 TrueViewを活用した配信では、各カテゴリーに含まれる男女の含有率の分析にも取り組んだ。例えば、「女性向けファッション」カテゴリーに属する動画に対して広告を配信した場合、広告を見た人のうち女性が多数を占めるのではないかと想像されるのではなかろうか。

 ところがそれは大きな間違いだった。アイデムが女性向けファッションのカテゴリーに属する動画に対して、性別はターゲティング設定に加えず、年齢だけを18〜44歳に設定して広告を配信したところ、男性が73.45%を占めた。同様に美容カテゴリーでも、男性が54.73%と過半を占める。これにより、単純なカテゴリーを指定した広告配信では、女性をターゲットとした場合に広告が到達しにくいことが明らかになった。

 一方で、男性を対象としたカテゴリー、例えば「IT」のカテゴリーに属する動画に対して広告を配信した場合には、同様の条件で男性の占める比率が82.72%となった。ターゲットを絞るとその分、配信単価が高まるため、男性をターゲットとする場合には性別を指定せずカテゴリー指定だけでも、十分に到達可能であると言えよう。

 同様に、楽天DSPでも試したところ、18〜44歳の女性をターゲットに動画広告を配信した場合、ターゲット層への到達率は72.44%。18〜44歳の男性をターゲットにした場合には72.47%となり、ともにTrueViewよりも精度は高かった。フリークアウトのDSPでは、18〜44歳の女性をターゲットに動画広告を配信すると66.74%になり、18〜44歳の男性に配信すると72.2%となった。データの分析は電通東日本とデジタルマーケティングのコンサルティングを手掛けるグラフトンノート(東京都港区)の協力を得た。

 こうしたデータを参考にしながら、広告出稿予算の配分などを見直す。併せて新規率も定点的に観測。低下した場合はキャンペーンの展開やクリエイティブの刷新などを検討するなど、動画広告の活用をさらに推進していく考えだ。