真夏の日差しが降り注いだ8月3日、栃木県那須塩原市にあるカゴメの那須工場に、カゴメ好きの精鋭20人が集結した。同工場は、カゴメが持つ全国7カ所の工場の中で最大規模。30代から70代まで男女半々の見学メンバーは、トマト畑での収穫も体験し、翌週8月11日から数量限定で発売された「カゴメトマトジュースプレミアム」を一足早く味わった。

 この20人は、カゴメファンコミュニティ「&KAGOME」の会員で、特にコミュニティ活性化に貢献した面々。「平日開催で那須塩原に自費で来られる」という難条件に喜び勇んで駆け付けた、"高濃度"なファンである。

カゴメが4月に開設したコミュニティサイト<a href="http://and.kagome.co.jp/" target="_blank">「&KAGOME(アンドカゴメ)」</a>
カゴメが4月に開設したコミュニティサイト「&KAGOME(アンドカゴメ)」

 &KAGOMEは「みんなとカゴメでつくるコミュニティ」をテーマに、ファンとカゴメの継続的な交流を目的として今年4月15日に開設した。Facebookページも開設している同社が新たにコミュニティを立ち上げる意図は何か? 同社コンシューマー事業本部マーケティング部デジタルマーケ・DMPグループの重友大輝氏は、「当社が志向しているのは、何百万人、何十万人といった会員数の規模をウリにするコミュニティではなく、間違いなくカゴメ商品が大好きで実際に日々ご購入いただいている上得意顧客が集まる場を作ること」と説明する。

 トマトジュース市場は、2012年にメタボ改善などの健康効果が報じられたことで一躍「トマトブーム」で沸いたが、以降は前年割れが続いている。野菜ミックスジュースもこれに同調する動きを見せており、楽観できる状況ではない。

 一方、顧客の購入動向を調べると、「上位2.5%の顧客が売り上げの30~40%を占めている状態」(重友氏)。1日220円以上、年間にして8万円以上カゴメ商品を購入するコアファン層がカゴメの売り上げを支えている格好だが、この重要な層が少しずつ離脱していることに危機意識を持っていた。そこで、ファンが買い続けてくれる理由や、今後も買い続けてもらうためのヒントを探るべく、意見を直接聞く場としてコミュニティ開設に至った。

 上得意客を集めるため、他社のコミュニティならば実施するであろうオープン時の会員募集キャンペーンは一切やっていない。告知したのは、通信販売「健康直送便」の購入者や長期保有者が多いことが特徴の同社株主のみ。今後も、過去に実施した工場見学ツアーや、全国の営業拠点で主催している料理教室の参加者に案内していく予定。いずれも既に密度の高い接点があって、上位2.5%の顧客が含まれていそうな層だ。

 コミュニティの中身は、食の話題を中心に会員同士が語り合う「トークルーム」、各家庭のオリジナルレシピを紹介しあう「レシピのーと」、食の疑問を投票で聞く「みんなはどっち」、カゴメ社員がファン限定で新商品やキャンペーンについて語る「カゴメ便り」、ファン限定イベントなどを紹介する「イベント広場」、といった具合で、カゴメ愛好家同士が語れる場という以外に取り立てて特徴はない。コアなファンでないと恐らく楽しめない場にあえてすることで、コアなファンを残す仕組みだ。

 「開設2年で1万人、4年で2万人が目安」(重友氏)と規模を追わないコミュニティがスタートして約4カ月。活性度では既に成果が出ている。会員の月間ログイン率は5月が34.5%、6月は38.5%。投稿などコミュニケーションに参加したアクティブ率は5月14.9%、6月17.8%と上昇傾向を見せている。「開設に当たって他社のコミュニティを調査したところ、大規模コミュニティではアクティブ率が数%。1%を切っているところも珍しくなかった」(重友氏)。それだけに、量より質を志す同社のコミュニティはまず幸先の良いスタートを切ったと言えそうだ。

 冒頭の工場見学メンバーには、カゴメ商品のPRキャッチフレーズも考えてもらい、秀作を店頭POPで使用することも決定した。上得意客を一方的にもてなすのではなく、カゴメのマーケティングに協力してほしい旨を明確に伝え、それに喜びを感じるファンが意見を寄せるという共創関係が、“トマトバブル”崩壊後の立て直しに貢献することになりそうだ。

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