ジェンダー課題は海外が熱い
女性の社会進出が進んでいる欧米では、女性の描かれ方を巡る炎上劇は起こらないのかと言えばそんなことはない。2015年の4月、ダイエットサプリを販売する英プロテインワールドが、スレンダーな水着美女をモデルに「ARE YOU BEACH BODY READY?(ビーチに行ける身体の準備はできてる?)」という挑発的なコピーを配したポスターが批判の的となった。「Each Bodys Ready(どんな身体だって行けるわよ)」というわけだ。署名運動サイト「Change.org」で取り下げを求める署名が行われ、デモも開催。大きいサイズの服を販売するアパレル事業者が相乗りした一方で、ダイエットサプリ側も売り上げを伸ばし、自社サイト上では今なおスリム美女を全面展開するなど、バトルが繰り広げられた。不愉快な表現にただ不満をもらすのではなく、撤去に向けて戦うあたりが意識の高さの表れだろう。
「カンヌライオンズをはじめとする広告賞では、ジェンダーをテーマにしたクリエーティブの出展が近年増加し、高く評価されている」と、カンヌで審査員の経験を持つ多摩美術大学教授の佐藤達郎氏は説明する。

右)「Fearless Girl」の永久設置を求める署名運動も進行している
今年のカンヌライオンズで4部門のグランプリを獲得した「Fearless Girl」は、動画ではなく銅像だった。米国の金融会社、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが、ニューヨークの金融街ウォール・ストリートの象徴になっている雄牛の銅像の対面に少女の銅像を設置。金融業における女性役員比率の低さや給与の不平等といった問題に目を向けさせることが狙いだった。
雄牛像の作者からの反発など賛否が割れながらもニューヨーク市長の支持を取り付けた少女像は、3月8日の国際女性デーに合わせた1週間の設置予定が1カ月に、さらに延長嘆願が寄せられたことから2018年3月までの設置延長が決まった。現在は永久設置を求める署名も行われている。批判はあっても、主張していくという強い信念が宿った取り組みだ。
欧米のジェンダー規範はかようにレベルが高い。「女性部下が男性上司に上目遣いでお酌しているような描写は、海外では危ないだろう」(広告代理店関係者)。「不寛容だ」と嘆いている場合ではなさそうだ。
「感動」「胸熱」は人を動かす
では、どんなクリエーティブなら広く支持を集められるのか。電通パブリックリレーションズ(電通PR、東京都中央区)が「企業魅力度調査」の一環として、どんな感情を伴うものならば企業の情報を人に伝えたくなるかを尋ねたところ、「感動」「胸熱」が2トップで、次いで女性では「信じられない」「爆笑」「カワイイ」と続くことが分かった(右図)。
総じて女性の方が他者への伝達に積極的で、10項目のうち最も関心が薄いのが「セクシー」だった。お色気路線は、やはりシェアに向かないコンテンツであることは明らかだ。

電通PRでは、人に伝えたくなる6つの視点を、頭文字をとって「IMPAKT」(上図)として既に提示していて、今回の10項目の感情トリガーと整合させたのが下図だ。調査からマッピングを作成した同社シニア・PRプランナーの根本陽平氏は、「完成度の高い動画には、感情要素10点のうち1~3点が含まれている。ターゲット層と訴えたい事柄に応じてプランニングに役立てることができる」と語る。ちなみに感動は一言で言うと泣ける系、胸熱は文字通り胸が高鳴る、胸キュン系だという。

例えば宮城県小林市の移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」は、市の魅力を伝える啓発的な内容をベースにしながらも、現地で使われている西諸弁がフランス語のように聞こえることを利用して、動画の最後に今までの説明は西諸弁でしゃべっていたことを種明かしし、驚嘆を引き出している。
先にジェンダー課題における国内と海外の差について言及したが、国内でも完成度の高いクリエーティブは出始めている。フェイスマスク「ルルルン」の40~50代向け商品の発売にあたり、製造販売元のグライド・エンタープライズ(東京都渋谷区)が公開した「もうまだ調査~肌と心は関係するのか~」は好事例の一つだ。
「あなたは何歳ですか?年齢に『もう』か『まだ』をつけるとしたら」──。この問いに「もう50代」と答えた女性の肌年齢と「まだ50代」と思う女性の肌年齢は、平均で7.1歳も違っていたという。スキンケアにかける金額の差ではないというから驚きだ。それを知った50代の出演者たちは、次々と明るい表情で「まだ~」と宣言していく。若作りを推奨するのではなく、気の持ちようで自分を変えることができる。そんなストーリーである。
診断に裏付けられたデータがあることから、啓発的で驚きの要素があり、自信を取り戻した彼女たちの姿はカッコ良く、私もできるはずと鼓舞される。そんな要素が散りばめられている。
思いつきのウケ狙いや、コンペのプレゼンの盛り上がりのまま、精査を欠いたクリエーティブを公開していては、今後も「事故」が絶えないだろう。動画からどんな感情を呼び起こして人から人へ伝わってほしいのか。信念のこもったクリエーティブに期待したい。