思い込み②不寛容で表現が制約→不寛容は今も昔も変わらず
「窃盗だろw」「桃の気持ち考えたことがあるのか!」──。ACジャパンが7月に公開したネットモラル啓発アニメ動画「苦情殺到!桃太郎」が話題となった。桃太郎のストーリーに基づいて川で洗濯していたおばあさんが、流れてきた大きな桃を取り上げると、「泥棒ワロタ」「通報!通報!」「謝罪会見マダー?」などのコメントで画面が埋め尽くされるというもの。SNS普及の負の側面である不寛容社会を鋭く描いた傑作だ。
ただし一方では単に自分の気に入らない現象に不寛容というレッテルを貼っているだけのケースがある。サントリーの動画が早々にお蔵入りになったことに不満を募らせる層もその一例だ。
桃太郎動画のように現在が不寛容社会であるのは確かだとして、果たしてかつての日本は寛容で「昔はよかった」のか? 問題になったCMを振り返れば、そのトレンドが見えてくる(図)。

クレームやむなしなものから、「こんなことで…」と苦笑するものまでさまざまだ。「あら、こんなところに牛肉が♪」という替え歌フレーズや「バカが多くて疲れません?」というセリフがやり玉に挙げられるなど総じて「昔も今と変わらず不寛容」ではないだろうか。
つまるところ、不寛容度が高まっているように感じられるのは、SNSで批判が容易になって可視化され、取り下げなどの判断スピードがアップしたからで、一概に以前は大らかだったとは言い難い。
むしろ難癖のようなクレームに対しては、自社SNSアカウントをフォローしているようなファンを味方につけて、施策が多数の人に支持されている旨をアピールすることも可能だ。毅然としたふるまいはむしろファンを増やし、結びつきを強めることになる。
難しいのは、当事者になると自社に非があるのか不寛容のせいか判断に迷うことだ。YouTubeにアップした動画広告の場合、好評な動画には再生回数の1000分の1(0.1%)以上の「高く評価」票が入り、高く評価と低く評価の合計を分母とした高く評価の割合は8割を超えると言われ、これが一つの目安になる。
例えば再生回数20万回で、高く評価が300件、低く評価が20件だとすると、高く評価票は再生回数の0.15%、高く評価率は93.8%で両方クリアしていることになる。
この基準で宮城県のPR動画をチェックすると(8月10日時点)、高く評価6368件は再生回数308万件の0.2%と反響は大きいものの、低く評価が3792件あるため、高く評価率は62.7%と低迷している。このデータからは、「一部のフェミニストが過剰に騒いでいる」といった言い訳は成り立たない。批判が寄せられて冷静さを欠くときほど、客観的な数字から判断するようにしたい。
思い込み③ 女性不在だから炎上→女性リーダーでも炎上する
広告宣伝部門に女性社員が少ないこと、女性管理職の割合が低いことが問題広告・プロモーションが横行する原因だ──。主に女性から怒りを買うような広告表現が問題になるたびによく指摘される課題である。
女性社員、女性管理職の登用を進めることは多様性確保の観点から欠かせないが、「男性だから問題が起こる」「女性に任せれば起こらない」というほど単純な話ではない。サントリーの宣伝部でデジタル広告を管轄している管理職には女性も就いている。それでも問題となった動画広告は世に出た。

ユニ・チャームが女性向け動画サービス「C CHANNEL」とタイアップの形で委託制作した生理用品のプロモーション動画は、「彼女が生理中のときに困ること」を彼氏側に尋ねたアンケート結果を基に、生理用品のメリットを訴求する内容で、「彼氏のご機嫌取りのための商品なのか?」と不評を買った。C CHANNELはその媒体特性から、企画制作の現場にも女性が多くいる。女性管理職比率の高さがトップクラスの資生堂でも、「25歳からは女の子じゃない」という「インテグレート」の動画広告のセリフを巡って20代後半の主顧客層から不満の声が上がった。
難しいのは、20代女性向けの商品は20代女性の感性に任せれば間違いない、とは必ずしも言えないことだ。実際のところ、ユニ・チャームの生理用品動画は、ターゲットとしていたC CHANNEL視聴者の間では当初さほど問題になっていなかった。拡散されてターゲットからやや外れた人も目にするようになって問題化した格好だ。ターゲットに刺さりつつターゲット外の人も不快にさせない配慮をするには、多様な目線からチェックが入った方がいい。
一方、多様な目線でチェックする機会があっても、間もなく公開という段階で根本的な修正は日程的に難しい場合、率直な意見は上がってきづらい。リスクを指摘する声を後ろ向きの発想と見なさず、改良につなげられるか。度量が試される。