レノア・ジャパン同様、Instagramのクリエイティブを広告に転用することで大きな成果を上げたのが、下着メーカーのピーチ・ジョンだ。同社が5月19日に女性向けキュレーションメディア「MERY」に掲載した記事広告は21万PV(ページビュー)を叩き出し、売り上げ貢献度は通常の記事広告と比較して10倍となった。
この記事が成功につながった要因は、Instagramで人気を集めた写真を広告クリエイティブに転用していることだ。転用したのは自社制作の写真なので、これまで紹介してきたUGCの活用とは少々異なる。ただ、Instagramのフォロワーの反応から効果的なクリエイティブを発掘する利用法も、新潮流の1つと言えよう。
フォロワーの反応から写真発掘
ピーチ・ジョンは今年3月にブランドを刷新している。「Life is Beautiful」をブランドコンセプトに掲げて、下着だけではなくルームウエアや化粧品などを含めた女性の総合ライフスタイルブランドを目指す。併せてマーケティング戦略も大幅に転換。従来は著名な日本人のタレントなどを広告塔に起用してきたが、「タレントによるイメージ付けではなく、より商品にフォーカスして訴求していく」(コミュニケーションデザイン部コミュニケーションデザイン課の安井牧子チーフ)ことを狙う。
こうした中、ビジュアルで新たなブランドの世界観を伝える場としてInstagramの活用を強化した。具体的には、ブランド刷新に先駆けて、2月にコミュニケーションデザイン課の東ひかる氏をInstagramの担当者として任命。東氏がInstagram専用のコンテンツ制作と投稿を担っている。

こうして投稿するコンテンツの中から一部、非常に反響の大きい写真が出始めた。例えば、貝殻をイメージしてデザインされた下着商品「人魚のブラ」を使った砂浜を連想させる写真は4180件のいいね!が付いている。通常はいいね!数が1000件前後のため4倍の数値だ。
同商品は既に完売していたものの、この写真が大きな反響を呼んだため、MERYの記事広告ではあえてこの写真をメーンビジュアルに据えた。「あの『人魚ブラ』に続く!? 思わず胸きゅん 夏のランジェリー5選!」と銘打って、他の商品を告知した。
広告への採用を決めた理由を東氏はこう説明する。「そもそもMERYの記事はソーシャルメディアで拡散されることで人気を集めるものが多い。そのため、ソーシャルメディアと親和性の高い写真を使ったほうが拡散が期待できた」。
その予想は的中した。記事はソーシャルメディアを通じて広く拡散されて、わずか1日で16万ものPVを稼いだ。「MERYの記事広告の中でも、トップクラスと聞いている」(東氏)。通常こうした記事広告はブランディングを目的に出稿するため、大きな売り上げにつながることは少ない。だが、この記事は「売り上げ増加にかなり貢献」(安井氏)した。また、この写真はTwitterの広告にも転用するなどさまざまな施策に活用した。この成果を受けて、ピーチ・ジョンではInstagramで人気のあった写真を使った記事広告の第2弾を計画中だ。
Facebook Japanの田野崎亮太執行役員も、UGCの活用は「既存の制作会社との連携」「Facebook Japanの持つクリエイティブショップとの連携」に続いて、Instagramのクリエイティブ制作におけるトレンドのうちの1つになるという。Facebookのマーケティングパートナー制度(FMP)の中にも、そうしたUGCの活用を支援するツールを提供する企業が徐々に増えている。
Facebook JapanもUGCの活用支援に本腰
例えば、シャトルロックジャパン(東京都渋谷区)のソーシャルメディアマーケティング支援ツール「Shuttlerock」もその1つ。クロックス・ジャパンが活用しているOlapicとも近しい機能を持ち、許諾を得た上で利用者がInstagramに投稿した写真にカートボタンを付けて、自社サイトに埋め込める。
レノア・ジャパンを支援するアライドアーキテクツも、FMPに参加している。同社は7月から、利用者が投稿した写真を、許諾を得た上で、InstagramやFacebookの広告クリエイティブに活用できるサービス「Letro」の提供を始めた。
これらの企業と議論を重ねる中、Facebook Japanも、「UGCの活用支援に積極的に取り組んでいく」(田野崎氏)方針を固めた。実際、8月16日からInstagramで3つのマーケティングサービスの提供を始めている。 その1つ、「ビジネスプロフィール」は、いわゆる企業アカウントだ。Facebookページを持つ企業が利用できる。店の位置情報、電話番号やメールといった連絡先を掲載することができるようになり、Instagramから直接、問い合わせを獲得できるようになる。

2つ目は、ビジネスプロフィールの利用企業が使える解析ツール「Instagramインサイト」である。Instagramインサイトでは、投稿したコンテンツの合計インプレッション数、コンテンツを見たユニークユーザー数、ビジネスプロフィールに記載した自社サイトへのリンクのクリック数、フォロワーのアクティブ率などを分析できる。
そして、3つ目のサービス「投稿の宣伝」は、Instagram上から直接、エンゲージメント率の高かったコンテンツに、コンバージョンにつなげるためのアクションを起こすためのボタンを追加して、広告として出稿できる機能だ。従来はFacebookの広告管理メニューからしか出稿できなかった。 こうしたサービスの追加で、工夫次第ではCVRも測定できるようになるなど、Instagramをマーケティングに活用する土壌が整いつつある。コンテンツを産む苦しさは、企業に永遠につきまとうが、だからこそ利用者を巻き込み、共にブランドを作り上げることに大きな価値がある。そこに気が付いた企業がInstagramの本当の価値を引き出せるのではないだろうか。