(2)ECサイト:写真に関連商品情報を付帯、ECサイトに専門コーナー

 カラフルなサンダルを主力製品に持つ靴ブランド「crocs」を展開するクロックス・ジャパン(東京都世田谷区)は、Instagram上のUGCを活用することで、ECサイトのコンテンツを強化している。

 元々、クロックス・ジャパンにはUGCを活用する素地があった。それを示すのが、アフィリエイト経由の売り上げだ。同社のアフィリエイト経由の売り上げのうち、4割を個人のブログが占める。特に売り上げ貢献度が高いのが、女性のブロガーだ。彼女たちは靴を着用した写真や合わせた洋服の写真を載せて、ブログに記事を書いてくれる。その記事経由で商品が売れるケースが多かった。つまり、「第三者が商品を紹介すると、それが売り上げにつながるという強い認識を持っていた」(eコマース事業の木村真紀ディレクター)。

 また、多くの企業と同じくクロックス・ジャパンも、単に商品だけを押し出すマーケティング戦略から、その商品がどんなライフスタイルに即しているかを伝えていく方向へと移り変わっていた。そうしたマーケティング戦略を進める上でInstagram上のUGCはうってつけだ。なぜなら利用者が日々の生活で靴や服を着用している写真は、ライフスタイルそのものを表現しているからである。

ECサイトのさまざまなページに利用者の写真を活用するクロックス・ジャパン
ECサイトのさまざまなページに利用者の写真を活用するクロックス・ジャパン

 そのため、米国などInstagramの利用が拡大するグローバルでは、先行してUGCを活用するためのツール「Olapic」を使い、利用者の写真を自社サイトに取り込む施策が進んでいた。このツールを国内でも使い始めた。

 Olapicは管理画面で写真を取得したいハッシュタグを設定しておくことで、Instagram上からそのハッシュタグが付いた写真を自動で収集できるツール。収集した写真の中から、自社で活用したい写真を投稿している利用者とInstagramのコメント欄を通じて連絡を取り、使用の許諾を得ることで、自社サイトなどにその写真を埋め込むことができる。また、写真を埋め込む際に、着用している商品や類似商品のリンクを付加できる。これにより、利用者の写真から直接、商品詳細ページへと誘導できる。

 クロックス・ジャパンでは「#クロックス」を軸に、グローバルで常設している「#findyourfun」といったハッシュタグを設定して写真を収集している。収集した写真の中から、国内で販売している商品、かつ打ち出したい商品を着用している写真を中心に、許諾を得ている。

 許諾を得た写真は、自社ECサイトに設置したUGCコーナーや各商品詳細ページに掲載している。前者はInstagramの写真から商品詳細ページへの集客を狙い、後者はコンテンツを拡充することでCVRの向上を狙っている。

 また、Olapicでは自社サイトに掲載した写真や、写真の投稿者ごとにインプレッション数や売り上げ貢献度なども分析できる。中には1人で約10万円の売り上げ貢献につながっている投稿者もいる。全体的には売り上げ貢献度はそれほど高くないものの、ROI(投下資本利益率)は十分に高いという。利用者の動画活用にも意欲を持っているという。

(3)広告:投稿写真をネイティブ広告に、CTR1.5倍を実現

 UGCの広告クリエイティブへの活用も進む。FacebookやInstagramのフィードに表示される広告は、機能やデザインがそのサービスに則ったネイティブ広告の一種として知られる。ところが、肝心の広告クリエイティブは既存のディスプレイ広告を流用するなど、“ネイティブ”になっていない企業が多い。

 そこで、Instagram上のUGCを利用し、広告クリエイティブをよりネイティブに近づけて効果を高めようと試みているのが、化粧品メーカーのレノア・ジャパン(東京都新宿区)だ。「TUNEMAKERS」というブランドで利用者からInstagramへの写真投稿キャンペーンで募った写真を広告クリエイティブに起用。7月1~3日にかけてFacebookとInstagramに配信した。その結果、自社で制作した広告クリエイティブと比較して、CTR(クリック率)は1.5倍高い結果となった。

 TUNEMAKERSはヒアルロン酸やセラミドといった、化粧品の原料として使用される成分をそのまま使用する「原液コスメ」と呼ばれるジャンルの商品を展開するブランド。それゆえ、美容感度の高い女性をターゲットとしている。Instagramにはファッションや美容に関心の高い女性の利用者も多い。まさに、レノア・ジャパンにとってアピールしたい層だ。

 そこで、5月にInstagramの公式アカウントを開設。情報発信を始めるのと併行して、自社サイトのLP(ランディングページ)に掲載する写真を募集するため、Instagramを投稿のプラットフォームとした写真投稿型のキャンペーンを実施した。キャンペーンはまず参加者を募り、応募した人の中から抽選で50人に対して商品を提供。その商品を撮影した写真をInstagramに投稿してもらう、いわゆるモニターキャンペーンだ。アライドアーキテクツのキャンペーンプラットフォーム「モニプラ」を活用して実施した。

 キャンペーンを告知すると、5月1~8日の間で300人以上の応募があった。そこから、デモグラフィック情報やInstagramに投稿している写真の内容などから、自社の顧客層と近しい人に絞り込んで当選者を決定した。当選者には、集めた写真を広告や記事に使用することの承諾を得た上で、商品を提供して写真を投稿してもらった。

 とはいえ、この手の写真投稿型キャンペーンは、写真撮影を利用者に委ねるため、意図せぬ写真ばかりが集まってしまうケースもある。そこで、商品の配送時に写真のサンプルを掲載したパンフレットを同封した。写真の構図を指定するわけではないものの、ある程度イメージを持ってもらうことを狙った。

 投稿には「#tunemakers」と「#ヒアルロン酸原液」の2つのハッシュタグを付けることを条件とし、そのハッシュタグが付いた写真を自動で収集した。結果的には100枚近い写真が集まった。これらの写真は当初の計画通りLPに掲載している。

レノア・ジャパンは利用者の写真を広告クリエイティブに活用
レノア・ジャパンは利用者の写真を広告クリエイティブに活用

 このキャンペーンで集めた写真は広告クリエイティブにも活用した。投稿型キャンペーンなどを実施する傍ら、Instagramの広告出稿にも関心を持っていた。ただ、「1ユーザーの立場で考えても、いかにも広告というクリエイティブはタップする気が起きない。ユーザー目線に合ったクリエイティブでなければおそらく押されないだろう」(マーケティング部の森田葵アシスタントブランドマネージャー氏)という懸念があった。UGCの活用は、その懸念を払拭できる可能性があった。

 利用者が投稿した写真であれば、Instagramにもなじむと考えられた。そこで、先述のキャンペーンで収集した写真を活用した広告クリエイティブと、自社で制作した広告クリエイティブとの両方を実験的に出稿し、効果を比較した。その結果は、本事例の冒頭で紹介した通りだ。

 ただ、今回は出稿期間が短かったこともあり、コンバージョンという面では明確な差が出なかった。というのも、レノア・ジャパンは今秋からTUNEMAKERSのデジタルマーケティングを強化し、現状3割程度にとどまるWeb経由の売り上げ比率を高めていく計画を進めている。今回の取り組みはこの新戦略に向けた実験的な意味合いが強い。こうした実験を繰り返して知見をためていく。

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