PR支援のビルコム(東京都港区)によれば、バズるニュースには「新製品」「トレンド」「意外な理由」「意外な数」「意外な人」の5要素のいずれか、または複数が要素として含まれているという。

 ビルコムは、2014年7月1日から2015年6月30日の1年間、Webニュース97媒体を対象に、カップ麺、缶コーヒー、シャンプー、クラフトビールの4商品について言及しているニュース記事1万9585本を抽出した。4商品を選んだ理由について同社の太田滋社長は、「競合との機能差が少なく、ブランドスイッチが起こりやすいコモディティー市場で、クチコミに左右されやすい商材」であることを挙げる。

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 約2万本の記事から、FacebookおよびTwitterでシェア・リツイートされた件数が多かった上位1000本のニュース記事タイトルを形態素解析して、頻出単語トップ20を抜き出した。これら20単語を記事タイトルに含むニュースが何を主題にしているか、同社スタッフが逐一目視でチェックした結果、浮かび上がったのが、先の5要素だったというわけだ。

 このうち、新製品とトレンドがクチコミされやすいのは当然として、新製品がそうそう出ない企業でも役に立ちそうなのが、意外な理由・数・人の3つである。

事象の裏側を見せることがニュースに

 「意外な理由」の例としては、今年5月に1900件以上シェアされた朝日新聞デジタルの記事「缶コーヒー、スチールからアルミに その理由は」がある。こうしたトピックは、飲料メーカー自らがオウンドメディアで発信しやすい内容だ。積極的にリリースや広報用資料でメディアにアプローチすれば、自社の取り組み事例を中心に記事化される可能性も高まるだろう。事象の裏側を見せることがニュースになり得る。その視点で社内を見回すと、身近なところにネタが転がっていそうだ。

 「意外な数」も、企業が発信しやすい話題だ。自社商品・サービスに関連するトピックをテーマにしたアンケートを実施し、その結果を公表する調査PRはその手法の1つ。時節に合ったテーマで顧客層の悩みや問題意識、行動について、数字で浮き彫りにすることは、自社商品ジャンルに世間の関心を引き付けるきっかけになる。その結果が従来の“定説”を覆すものだったり、あるいは思わず「あるある!」と同意したくなる数字だったりすると、得られる反響も大きくなる。

 ニキビケア用品「プロアクティブ」の通販事業を手がけるガシー・レンカー・ジャパン(東京都品川区)は、自社メディア「ニキペディア」で掲載したアンケート調査記事がWebニュースでも記事化されてサイト流入を増やした実績を持つ。

 今年2月13日からプロアクティブ利用者を対象に新生活に関するWebアンケート調査を実施し、3月5日に「新生活は楽しいだけじゃない!847人の意外な回答?」を掲載。新生活で感じるストレス要因や食生活の変化、宴会の回数、睡眠時間などの設問に対し、人間関係のストレスが多く、外食・コンビニ弁当が増えたといった新年度特有の変化が端的に表れていたことからPVが伸びた。このため、3月25日にこの内容をニュースリリースに仕立てたところ、Webニュースメディアがこれを取り上げ、ニュースポータルにも転載された。

 ヤフトピにまではピックアップされなかったものの、「ヤフーで『ニキビ』と検索すると、検索上位に『ニキビに関するニュース』としてこのWebニュース記事が表示されたため、ニキペディアへの流入を増やすことができた」(同社デジタルマーケティング部シニアマネージャーの藤原尚也氏)。こうした調査ものとWebニュースは相性がよく、今後もアンケートを手掛ける際には同時にリリースも配信して、ニュース記事化を狙っていく考えだ。

記念日の制定も意外な数になる

 意外な数は、アンケート結果だけではない。記念日の制定もその1つ。11月11日の「ポッキー&プリッツの日」(江崎グリコ)、8月2日の「パンツの日」(ワコール)など、記念日を作ってキャンペーンを絡めるのは記事化の近道だ。

 これまでバズる要素として言われてきた共感や感動、サプライズなどは、ニュースの受け手側の感情であって企業側がコントロールすることは困難だ。一方、“新法則”の意外な理由・数などは、「企業側が発信すべき要素が明確になるため、取り組みやすい」(ビルコムの太田社長)。バズ狙いが裏目に出る炎上も起こりにくいと言えよう。リリースやコンテンツのネタに窮していた担当者には大きな指針になるはずだ。

 なおビルコムは、クチコミ件数の多かった人気記事がどのニュースメディアに載ったものであるかも調査した。結果、ニュースポータルが約7割を占め、Yahoo!ニュースが48.5%と圧倒的だった。さらに、人気記事をポータルに提供したニュース提供元についても調査。クチコミ件数上位1000本のうちニュースポータル掲載の595本を調べた結果、提供元トップは産経新聞で66本だった。このランキングはリリース送付先の見直しに役立ちそうだ。

Yahoo!ニュースの影響力は圧倒的。ニュースのネタ元は産経が強い
Yahoo!ニュースの影響力は圧倒的。ニュースのネタ元は産経が強い

 むろん、クチコミされるニュースはビルコムが提示した新法則がすべてではない。オンライン露出度の高い企業の工夫を見ていこう。

 まず、ヘルスメーター大手のタニタ(東京都板橋区)。続編と合わせて500万部の大ヒットを飛ばしたダイエットレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』の出版、そしてリアル店舗「丸の内タニタ食堂」の出店と、2011~2012年にかけての同社は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで話題を独占し、一躍人気企業に名乗りを上げたのは衆知の通り。大事なのは、一大ブームを築いた“その後”である。ブームが一巡すると瞬く間に定位置に戻ってしまう盛大な“一発屋”が後を絶たない。

タニタ、「ブランド・ジャパン」順位の推移
タニタ、「ブランド・ジャパン」順位の推移
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 だがタニタは違った。日経BPコンサルティング(東京都港区)が毎年春に発表(前年の暮れに調査)している企業ブランド力調査「ブランド・ジャパン」のビジネスパーソンによる評価で、2011年の181位から2013年に8位とトップ10入りを果たしたタニタは、翌年57位に順位を落としたものの2015年は29位に復活。急伸した2012年の38位を上回り、上位安定モードに入った。

 体組成計など同社の主力商品は、画期的な新商品が年に何度も出るわけではない。それでもなぜタニタのニュースは枯渇しないのか。

協業でニュースのネタを作るタニタ

 同社は、異業種とのコラボでBtoBtoC型のサービスモデルを開発し、それを拡大・移植している。丸の内で成功を収めたタニタ食堂は、提携店を含め現在11店舗に拡大し、出店のたびにニュースになっている。持ち帰り弁当「ほっともっと」を展開するプレナスとのコラボ商品「タニタ監修弁当」もこのパターンだ。都内187店舗で開始した今年1月、全国展開した4月、メニューを刷新した7月と、すべてニュースに取り上げられた。タニタ食堂監修型の食品は、減塩みそをベースにしたマルコメ(長野市)の調理商品シリーズ、エースコック(大阪府吹田市)の「ヌードルはるさめ」、森永乳業の「100kcalデザート」などがあり、発売元企業が積極的にリリースして記事化されている。

 現在取り組んでいるのが、「タニタ健康プログラム」を自治体と提携して広めることだ。体組成計や血圧計による健康チェックと歩数計の配布、健康指導を一体化したプログラムで、自社従業員向けに実施して1人当たり医療費を9%削減した実績を持つ。昨年8月、新潟県長岡市の健康まちづくり計画を支援する形でスタートした。医療費削減を目指す国策マターだけに、他の自治体で導入が決まるたびにニュースになるだろう。

 こうしたプロジェクトを主導しているのが、広報セクションに当たるブランディング推進室だ。タニタブランドの向上が見込めるパートナーとの協業で新規事業を起こし、広報がコストセンターからプロフィットセンターになることを志向している。同社ブランディング推進室室長の猪野正浩氏は、「体脂肪計に代表される健康を“はかる”タニタに加えて、食事や提案を通じて健康を“つくる”タニタへと進化していく」と意欲をみせる。広く健康をテーマとした事業を積極的に開拓することで、タニタの露出頻度はブームの後も落ち込まず、獲得した知名度と人気を維持・拡大している。