鳩に困ったら雨宮~♪。今春、こんなフレーズを連発する1分ほどのYouTube動画が次々とシェアされて話題になった。シロアリなど害虫駆除事業を愛知・岐阜・三重の東海3県で展開する雨宮(名古屋市北区)が、鳩駆除サービスの認知獲得を目的に公開したものだ。

害虫駆除事業の雨宮が公開したYouTube動画。昭和レトロの雰囲気が強烈な印象を残す
害虫駆除事業の雨宮が公開したYouTube動画。昭和レトロの雰囲気が強烈な印象を残す

 頭に乗った鳩のせいで糞まみれになったスーツ姿のビジネスマンが、釣りや将棋の対局、格闘ゲームなど何の脈絡もない様々な場面に登場しては、冒頭のフレーズが連呼される。そのフレーズが音程をやや外した不協和音で、ひずんだ音声のため、昭和の地方テレビ局CMをイメージさせるレトロ感にあふれている。

 「クセになるww」「シュールだ」「やばい、ぶっ飛んでる」など、公開されるやその異様な内容が大ウケし、公開1週間で再生回数が早々に20万回を突破。8月10日時点で60万回に迫る勢いだ。

 もともとは屋外広告(OOH)を起点とする地元住民向けの認知拡大キャンペーンだった。名古屋の繁華街、栄の街頭に鳩を頭に乗せた糞まみれのビジネスマンのオブジェを設置し、その傍らに配置したボード上のQRコードをスマートフォンから読み取ってもらって特設サイトに誘導。そこにYouTubeへのリンクを張り、動画を見てもらって「ハト害なら雨宮」を刷り込む設計だ。この特設サイトにも1万人以上が訪れ、コーポレートサイトへの訪問者数の増加、問い合わせ件数の増加というビジネス上の成果につながった。

 奇抜なクリエイティブが見事に当たった格好だが、YouTube動画の再生回数が加速度的に伸びた理由として、Webニュースメディアの存在も見逃せない。「web R25」「ねとらぼ」「ロケットニュース24」などが取り上げたことで記事がシェアされ、動画の再生に弾みがついた。

 同様の例はほかにもある。岩手県内で音楽教室を展開する東山堂(岩手県盛岡市)は、娘の結婚披露宴のためにピアノを練習して披露する新婦の父の姿を描いた昨年春公開の動画が話題を呼び、再生回数が300万回を超えた。タイヤ販売のオートウェイ(福岡県苅田町)も2013年の暮れ、冬用タイヤの必要性を啓蒙する目的で配信した動画「雪道コワイ」が、タイトル通り怖すぎたことで拡散し、再生回数は930万回に達した。

 これら地方の中小企業発の動画の拡散に弾みがついたのも、Webニュースの記事化がきっかけだった。コンテンツの魅力でユーザーを引きつけ、シェア・リツイートが連鎖し、この動向をキャッチしたWebニュースが記事化する──。このように「ニュースにする」「話題を起こす」力が、企業にとってこれからますます重要になる。

ステマ厳禁の時代が到来、意外なクチコミで訴求を

 なぜ今このようなことを強く主張するのか。これまでは、「広告」「PR」といった断り書きを付さない宣伝目的の記事、いわゆるノンクレジットタイアップ広告記事を制作し、ニュースポータルやニュースアプリに配信する企業がいた。しかし、一部では常態化していたこの悪習に頼ることは、もうできなくなったからだ。

 「Yahoo!ニュース」を運営するヤフーのメディアカンパニーは7月30日、「編集コンテンツと誤認させて広告を届ける行為(ステルスマーケティング、いわゆるステマ)に対する考え」と題した記事をYahoo!ニューススタッフブログに公開。「Yahoo!ニュースでこのような悪質な行為を許せば、記事内容に対する信頼が損なわれるだけでなく、読者、広告主との信頼関係、Yahoo!ニュースそのものへの信頼を大きく揺るがす」「これらの行為を積極的に排除し、撲滅したい」との方針を示した。

 ヤフーが強い意思表示をした理由は大きく2つある。1つは日本インタラクティブ広告協会が今年3月にネイティブ広告に関するガイドラインを策定して以降、ステマ記事を巡る議論が活発化したことがある。本誌も7月号の特集「ノンクレジット広告を望みますか?」で取り上げた。

 もう1つ、ヤフーがスマートフォン向けサイトを5月20日に全面リニューアルしたことも関係している。スクロールを促進するタイムライン型を採用したことで、「Yahoo!ニュース トピックス(ヤフトピ)」のピックアップ記事に加え、関連ニュースや人気のニュース記事にアクセスしやすくなった。結果、ヤフトピ記事とYahoo!ニュースの一般記事とのPV格差が縮小している。

 刷新効果でPVが伸びたが、問題もあった。これまで一部にステマ記事がニュース提供元から提供されている懸念はあったものの、1日に数千本単位で配信されてくる記事を逐一チェックすることは不可能で、PVが圧倒的に多いトピックスにはせめて広告まがいの記事が載ることのないよう、厳選してきた。

 しかしトピックス以外の記事もPVが増えたことで、ステマ記事を送らせない、受け付けない体制作りが不可欠になった。厳しく臨む姿勢を示したのは、そうした経緯、事情からである。

 企業は「ステマ厳禁時代のデジタルPR」に否応なく真剣に取り組む必要が出てきた。どのようなニュース、コンテンツを発信していけば、話題になるか、ニュース記事に取り上げられるか。この巧拙がオンライン上における自社・商品名の露出量を左右し、企業ブランド力に直結することになる。

 では、ネットで話題になる要素とは何だろうか。これまで「バズる法則」としては一般的に、いいね!を促す「共感」、心温まる「感動」、想定外の「サプライズ(驚き、衝撃)」、そして犬・猫に代表される「カワイイ」といったキーワードが挙げられてきた。

 この法則に異論はない。しかし、狙ってバズらせるのは容易なことではないし、不発にとどまらず、狙いとは異なる予想外の反応で炎上してしまうことも、たびたび起きている。

 ではどうしたらよいか。PR支援のビルコム(東京都港区)が、話題になるWebニュースの分析から導いた「新・クチコミの法則」を提示しているので、次回(2)で紹介する。

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