通信教育大手のユーキャン(東京都新宿区)が、タブレット端末向けに販売しているデジタル教材で得られたデータの活用を推進している。

 デジタル教材では、受講者ごとに、教材を利用したデータがログとして蓄積される。これにより、受講者が実際にどれくらいの頻度で教材を利用しているのか、1回の勉強でどれくらいの量を学習するのか、さらに勉強が進まない層がどのように教材を利用しているのかといった、従来の紙の教材では見えにくかったデータを取得できるようになった。このデータに基づいて、教材のテキストの分量を減らすなどの改善に生かしている。狙うのは、受講者の合格率の向上だ。

タブレット端末を利用して学習できるユーキャンのデジタル教材
タブレット端末を利用して学習できるユーキャンのデジタル教材

 ユーキャンが提供する通信講座のうち約半数の60講座が、資格の取得といったゴールが決まっている。しかし、全員が必ず合格できるわけではないため、ユーキャンのブランドイメージに影響が出る可能性がある。「受講者はユーキャンなら合格できると思って、申し込んでくる。ところが、仮に受講者自身の事情で挫折したとしても、ユーキャンでは合格できないという印象を持たれてしまう」(教育事業部講座企画1部の初野正幸部長)というのだ。

 通信講座といえばユーキャン。このブランド力を維持するには、勉強が進むような教材の設計はもちろん、受講者に対してメールでアドバイスをするなどして合格へと導き、受講者全体の合格率を引き上げていくことが求められる。

 そこで、より適切に指導をするために、これまでも受講者のデータ分析に力を入れてきた。例えば、受講者の初回の課題の添削提出率が高いと合格率も高まるというデータに基づき、初回の課題を意図的に簡単にするといった教材の改善や、2回目の課題の提出率を高めるために課題のヒントとなる動画を案内する、といった施策に取り組んできた。

 ただ、紙の教材では得られるデータに限りがある。例えば、「中には一度も課題を提出せずに合格する受講者もいる」(初野氏)が、そうした層の教材の利用法や、学習の進め方などは全く分からなかった。

受講者の2割はデジタル教材利用

 だが、ユーキャンはこの一見不可能に思える「教材の利用法」の分析を可能にした。デジタル教材の活用によってだ。同社は昨年、初めてタブレット端末で利用できるデジタル教材を、「宅地建物取引士」の資格講座で提供した。狙いはデータ分析よりも市場分析が大きかった。そもそもデジタル教材を買う層が存在するのか。半信半疑ではあったものの、テキスト版と比較して1万円安価な4万9800円で販売したこともあり、受講者全体の2割がデジタル教材を購入。想定以上に売れた。一定の利用者を獲得できたことで、副次的にデータ分析につながる効果をもたらした。

 「これまでの受講者の分析は、受講者からのレスポンスがないと把握できない受動的なものだった。一方、デジタル教材は、直接のレスポンスはなくてもログという形ですべてのデータが得られる」(初野氏)。ここから、「受講者の多くは週に1~2回、教材を利用している」「1回当たり10~20ページの学習をする受講者が多い」といった勉強の速度が把握できたほか、「受講者の15%は1ページも読んでいない」という課題もはっきりと浮き彫りになり、対策を考えられるようになった。

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