テレビとネットを連動させて、新たなコミュニケーションと付加価値を生み出す「ソーシャルテレビ」。デジタルマーケターが知っているようで知らないその実態と最新動向を、今号から3回に分けてレポートする。

 ソーシャルテレビという言葉は、皆さんご存じだろうが、その実態を知る人は、どれほどいるだろうか。もともとは「テレビを見ながらTwitterでつぶやく行為」を言い表した言葉だ。米国で2010年ごろから使われるようになった。日本では2011年12月に、日本テレビが映画『天空の城ラピュタ』を放送した際に起きた「バルス祭」で脚光を浴びるようになった。当時は「テレビを見ながらTwitterでの投稿を促すと、視聴率が上がる」との期待があった。

 そんなソーシャルメディアをうまく企画に生かしたテレビ番組を表彰する「ソーシャルテレビ・アワード」を日経BPが始めたのは2012年のこと。私も同じ年に「ソーシャルテレビ推進会議」という勉強会をスタートさせている。この勉強会の存在を知った日経BPの依頼で、今年はアワードの選考委員をさせていただいた。

 このようにソーシャルテレビを巡る動きは活発だが、読者からは「テレビなんて自分の仕事に関係がない」「そもそもデジタルマーケターはテレビを見ないんだよ」といった声が聞こえてきそうだ。

 だが、それでよいのだろうか。テレビ・アワードの歴史を振り返るだけでも、これがデジタルマーケターにとって無視できない動きであることが理解できるだろう。アワード初年の大賞はTBSテレビ『SPEC~翔~』という番組だった。ドラマを見ながらのTwitter投稿を呼びかけ、驚くほど盛り上がったことが受賞理由になった。翌2013年のNHK×日本テレビ『TV60番勝負』は、2つのテレビ局が企画を競い合い、視聴者がスマートフォンのボタンを押して投票する仕組みなどが評価された。そして2014年の日本テレビ『THE MUSIC DAY 音楽のちから』は、嵐が歌っている最中に、視聴者がスマートフォンのゲームを通じて番組に参加する仕掛けが秀逸だった。137万人という参加者の多さも評価のポイントになった。

制作者と視聴者とが一緒に「遊ぶ」

 こうして受賞作を振り返ると「遊び」の要素が多いことに気が付くだろう。テレビマンは「お祭り好き」が多い。何十万人も集めて何かをさせた、ということに喜びを感じる人たちだ。ソーシャルテレビとは、テレビ制作者と視聴者が一緒に「遊ぶ」行為と言えるかもしれない。

 それだけではない。『音楽のちから』では、嵐のメドレーが終わるまでの数十分間に、テレビ局が用意したスマートフォンサイトに137万人の視聴者が集まった。デジタル施策だけだったら、これほど短い時間に100万人を超える人を集められただろうか。137万人が同時にアクセスしてもダウンしないようにする苦労も並大抵ではなかったはずだ。それを考えるだけでも画期的な企画だった。ある意味で2014年までは、テレビとネットが連動して何ができるのか、何がリスクなのか、問題にどう対処すればよいのかを探る助走期間。地道に経験を積み重ねた3年間だった。

「投手中心」「打者中心」など見たいアングルで視聴できる『バーチャル高校野球』
「投手中心」「打者中心」など見たいアングルで視聴できる『バーチャル高校野球』

 そして今年は、助走を終えて、まさに飛び立たんとするかのような企画が大賞を受賞した。朝日放送のサイト『バーチャル高校野球』である。スマートフォンをテレビの“脇役”から引き上げ、テレビ同様にスマホで試合を視聴してもらうという大胆な企画だ。サイマルとか同時再送信などと呼ばれるネットの放送に、独自のCMスポンサーを獲得した点も評価できる。テレビ局がネットで同じ内容を配信して広告収入を得るスキームに、本格的に取り組んだ初めての事例である。2015年に至り、ソーシャルテレビはようやく実ビジネスの世界へと踏み込んだ。

 今年新設された「広告賞」を受賞した『NISSAN×リアル脱出ゲームTV 史上最難関の採用試験 THE TEST』は、TBSの制作スタッフと、代理店であるTBWA\HAKUHODOのスタッフが協力して作り上げたもの。従来の役割分担を飛び越えることが、この試みには不可欠だった。

 ソーシャルテレビとは、「ものごとの見方」でもある。テレビとネットとをつないで新たなコミュニケーションを作り出す。解放的なアイデアを具現化する取り組みでもある。

 テレビには膨大な数の人びとを一度に集めるパワーがあるが、これまでは、その膨大なアクセスを生かしきれなかった。広告主企業のテレビCM担当者は、確保したGRP(延べ視聴率)分のリーチが獲得できれば、それで満足していた。リーチできた対象に対する働きかけは、せいぜい「続きはWEBでと2秒入れたからいいだろう」といった程度だった。

 ソーシャルテレビは、その限界を突破する可能性を秘める。デジタルマーケターは「リーチだけでいいんですか?」「ブランドに関与させる施策を、テレビを入り口にできないでしょうか?」などとブランドマネジャーに言ってよいし、言うべきだ。

流通への訴求狙った「満点ママ」

 今、テレビの平均視聴率ははっきりと落ちている。「テレビCMを続けていいのか」「長年やってきた番組のタイム枠を続けるべきなのか」など、広告主のテレビ担当者には迷いが生じているはずだ。デジタルマーケターという門外漢でも口出ししやすい状況が生まれている。

 全国ネットには口出ししにくいというなら、ローカル局の番組と組む手もある。実際、ローカル局でもユニークな企画がいくつも展開されている。その1つが、ライオンがテレビ新広島(TSS)で展開した企画だ。

 ライオンがテレビ新広島と組んで展開した『ひろしま満点ママ』のスキーム
ライオンがテレビ新広島と組んで展開した『ひろしま満点ママ』のスキーム

 同局では月曜から金曜の午前9時50分から、『ひろしま満点ママ』という情報番組を放送している。そのスタッフと出演者とでドラマを制作した。家族の絆を描く、ちょっとジンとくる物語だが、毎回「はみがき」「洗濯」などのシーンがちらりと登場する。ドラマが終わるとライオンの研究員が登場し、物語に絡めて「はみがき」の豆知識などを紹介するのだ。これをテレビで放送するのではなく、満点ママのFacebookページでだけ公開している。この企画の狙いは、流通へのアピールだ。満点ママは地元の人気番組なので、その出演者が登場するドラマは、地元では強いアピール力を持つ。お店への営業活動の絶大なバックアップにもなる。ここにはGRPとは全く異なる軸のテレビ活用法がある。

 往時ほどの影響力はもはやないがテレビには人びとを、理屈でなく動かすチカラがある。そのチカラはネットと結びつくことで、より大きくなる。新たな段階を迎えつつあるソーシャルテレビに形を与え、施策に生かすには、デジタルマーケターの知識と経験が要る。デジタルマーケターだからこそテレビを使う。そんな新しい時代が、もう目前に迫っている。

境 治 Osamu SAKAI
1962年福岡市生まれ、東京大学文学部卒。メディアコンサルタントとしてフリーランスで活動中。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」で最新情報を発信している。