紳士服チェーン店大手のはるやま商事は、過去の購買履歴データを人工知能(AI)で分析し、顧客それぞれにふさわしいスーツやシャツ、ネクタイなどをレコメンド。収益向上を目指すパーソナライゼーションに力を入れ始めた。
まず、同社が展開する若者向きブランド「P.S.FA(パーフェクトスーツファクトリー)」の会員100万人の過去5年分の購買履歴を、ITベンチャーのカラフル・ボード(東京都渋谷区)が開発したAI「SENSY(センシー)」を使って分析した。
SENSYは、数値などテキストで示されたデータに加え、画像からも特徴を抽出し、分析できる。例えば、購買履歴から顧客が購入した商品のサイズや生地の種類を抽出するほか、購入した商品のカタログ写真から、襟の型や色、シルエットなどに着目し、顧客の好みの襟の形や色、シルエットなどを判定。多くの商品の中から、その顧客が好む確率が高そうなスーツやシャツを選び出す。紳士服チェーン店にとって使い勝手のよいAIで、同業種では、はるやま商事が独占利用できる契約を締結した。「画像そのものを分析できるSENSYを武器に、業界上位を追撃したい」(経営企画部の横山健一郎部長)と考えている。
今秋からはECサイトにもレコメンドを導入

レコメンド第1弾として取り組んだのが、ハガキによるダイレクトメール(DM)。P.S.FAの会員の中から、購入頻度や点数が多い1万2000人を選び、1人ひとりの好みに合わせたスーツやシャツを、割引券付きのDMハガキに数点ずつ掲載して6月11日に郵送した。これまでは原則、すべての会員に同じ内容のDMハガキを郵送していた。
狙いは、DMを受け取った顧客の来店率(レスポンス)を引き上げることで、「大きな手応えがあった」(横山氏)という。DM発送後、約1カ月の間に、ハガキを持参して来店した顧客は、通常のDMハガキの場合と比べて、メンズで15%、レディースで12%増加した。狙い通り、店頭の売り上げもアップしたという。「AI分析の費用やDM発送までの工程増などでコストが膨らみ、利益増には至らなかった」(横山氏)が、今後は工程の効率化などにより「同じ枚数のDMなら確実に利益向上が見込める」(横山氏)という。年内には第2弾のDMを発送し、配送枚数も順次、増やしていく計画だ。
さらに今年の秋からはEC(電子商取引)サイトにも、AIを使ったレコメンドを導入する計画だ。ECサイトを訪れた顧客のサイト上の行動や、購買履歴などを蓄積したデータをSENSYで分析し、会員の好みの商品を提案する。具体的には、ある会員がECサイトを訪れた際に、好みそうな色やシルエット、生地のスーツやシャツを、サイト上の目につきやすい場所に掲載する。
今後は、襟の形やシルエット、色といった要素のどこがどんな顧客にとって重要なのかを、「仮説、検証を繰り返しながら、AIに加えて人間も関与して分析し、レコメンドの精度を高める」(横山氏)ことを目指す。