タイは、自動車を中心として早くから外資が進出し、産業集積も進んできた。人口6500万人の国であるが、携帯電話の登録数は9300万を超える。2015年時点で3500万人のアクティブなインターネットユーザー(2014年度比で47%増)、3400万人のSNSユーザー(2014年度比42%増)を抱えている。また、対人口比スマートフォン普及率は日本より高く、70%がオンラインへはスマホを介してアクセスし、一気にスマホが生活の、そしてマーケティングのプラットフォームとなった。

タイ最大手ポテトチップスブランド「Lay's(レイズ)」が実施したキャンペーン「Lay’s Smile(レイズ・スマイル)」
タイ最大手ポテトチップスブランド「Lay's(レイズ)」が実施したキャンペーン「Lay’s Smile(レイズ・スマイル)」

 そんなタイのスマホ生活者を思いきり活用したのが、タイのペプシコーラが今年展開した、タイ最大手ポテトチップスブランド「Lay's(レイズ)」の発売20周年記念キャンペーン「Lay’s Smile(レイズ・スマイル)」である。口元の笑顔がプリントされた27種類の新パッケージを発売し、FacebookとInstagramに、パッケージとともに撮影した写真をハッシュタグ「#LaysSmile」を付けて投稿することでキャンペーン期間中、毎週10万バーツ(約30万円)が当たる施策を展開した。SNSを活用したキャンペーンが数ある中で、このレイズは、タイ人が大好きで誰もが参加しやすい「自撮り×Layのポテトチップス」という組み合わせで、「笑顔×タイ人が大好きな現金プロモーション」を実現した秀逸なマーケティングであった。開始当初から瞬く間に、SNSでの大拡散を見事に実現し、国境を超えて話題になった。キャンペーンによる売り上げは公開されていないが、27種類もの異なる笑顔のパッケージという商品戦略との相乗効果で、リピート購入を促進し、顧客単価もアップしたに違いない。

生活者のライフスタイルに合致した施策

 タイのスマホ生活者を引き付けた事例としては、AR(拡張現実)を使ったタイでは老舗の食品メーカーOISHI(オイシイ)のキャンペーン「OISHI LOVE AR」が挙げられる。このキャンペーンは、ユーザーが自分と母親の写真を撮り、オイシイのARパーソナルディスプレイを創るアプリを通して応募することで、サムソンのスマホが当たるというもの。母の日のタイミングで実施され、母親への愛情を目に見える形で、新しい技術とツールで表現しようというテーマは、家族を非常に大事にするタイ人に、まさに刺さるコンセプトであった。さらに、パーソナライズされた楽しみを提供することで、参加意欲をかきたてた。

 顧客データの活用という意味でも成果は大きかったようだ。このキャンペーンに参加するには、商品のロゴを最初にスキャンする必要がある。この商品データとアプリのダウンロード数、獲得した応募者のプロフィールに、キャンペーン期間の売り上げとを重ね合わせることで、オイシイはキャンペーンROI(投下資本利益率)を効果的に検証することができたという。

 レイズもオイシイも、ユーザーがプロアクティブに参加することでブランドへのコミットメントを高め、商品購入を促進しようとする販促の基本形ではある。そこに「写真で遊ぶ」という仕組みを取り入れ、アプリやSNSと組み合わせることで、スマホでエンタメを完結する生活者のライフスタイルにジャストフィットするマーケティングとなっている。

 さて、このようなSNS大国の1つであるタイの、スマホ生活者サイドから見るデジタルインターフェイスの特徴として、LINEの強さが挙げられる。Facebookのアクティブユーザー3400万人にひけをとらない、3300万人のユーザーを持つタイのLINEは、日本に次いで2番目に大きいユーザーボリュームとなっている。バンコクではほとんどの人が使っているように思えるほどで、実際ビジネスシーンでもちょっとしたやり取りはEメールではなくLINEで連絡が来る。

 そんなLINEは、企業の広告プラットフォームだけではなく、O2O(オンラインtoオフライン)マーケティング全体のプラットフォームになりつつある。タイを含めアセアン新興国ではEC(電子商取引)の普及が遅れていると言われてきた。タイ政府商業開発局によると、EC市場成長率は2015年から2016年で1.5倍と予測され、「We love shopping」などのECは活況のように見える。しかし、生活者調査では、オンラインショッピングをする人は全体の18%にとどまっている。

 規模がまだまだ小さい理由の1つが、クレジットカード普及率の低さ、あるいはクレジットカードを保有していても、レストランやリアルの店舗でしか利用せず、オンライン利用する人が少ないことにあった。従ってオンラインショッピングをしても、別途銀行ATM決済や、コンビニ決済をする必要があった。

「LINE Pay」関連のサービス続々

 そんな中、LINEはタイで「LINE Pay(ラインペイ)」という決済サービスを導入した。これはLINEが運営するオンラインストアやLINE Pay加盟店での電子決済、LINEでつながる「友だち」間での送金を可能にするもの。バンコク銀行、サイアム商業銀行、カシコン銀行と提携し、これら銀行の口座と直結している。既にLINE Payの登録ユーザー数は150万人以上だという。またLINE Payの加盟店は、ドイツ系のECサイトを運営するラザダ、共同購入型クーポンサイト事業を手掛けるエンソゴ、流通大手セントラル・グループ傘下でオンラインショッピングを手掛けるセントラルオンラインなどで、いわゆる有力ECサイトではLINE Payが使えるようになった。

 実際に、例えばセントラルオンラインでは、支払い方法の選択画面に「シンプルで安全なクレジット/デビットカード・Eウォレット支払いをLINE Payで!」という謳い文句がついて、LINE Payの選択肢が一番上に出てくる。

「Rabbit LINE Pay」の記者発表会
「Rabbit LINE Pay」の記者発表会

 また3月には、タイのBTS(スカイトレイン)などで利用できる電子マネーカード「Rabbit(ラビット)」と資本提携し、今後は「Rabbit LINE Pay」として新たに展開すると発表した。ラビットは、月間2000万人が利用するBTSスカイトレインの乗車カードなどとして使われ、筆者もバンコクにいる時には必ずこのカードを使用している。LINE Payとラビットが一体となれば、移動、買い物や送金など、丸一日をキャッシュレスで過ごすことができるようになる。

 さらに、LINEは6月に、「LINE MAN(ラインマン)」という、荷物の配送やフードデリバリーを請け負うサービスを開始した。オンデマンド・デリバリー・サービスと物流のタイ最大手「ララムーブ」と提携。「フード・デリバリー・サービス」では、レストランポータルのタイ最大手「Wongnai」と提携しているという。LINEによると、「ユーザーから注文が入ると、LINE MANがレストランに最も近いドライバーを調べ、ドライバーは速やかに事前購入をして商品をお届けします。料金はサービス提供完了後に直接、LINE MANに現金でお支払いいただけます」とのことだ。

 このLINE Payによる決済サービスと、LINE MANによるデリバリーサービスが繋がれば、まさにECの一連のバリューチェーンインフラをLINEが担うことになる。その脅威とは、企業サイドにとって、例えば「Tポイント」のように、膨大なマーケティングデータをLINEが保有する可能性を意味している。

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