キリンは8月4日、ビールブランド「一番搾り」のブランドサイトと自社EC(電子商取引)サイト「DRINX(ドリンクス)」でWeb接客ツールを本格的に活用し始めた。

 Web接客ツールとは、顧客情報やサイトのアクセス履歴といったデータを用いて、サイト訪問者に最適な情報をポップアップで表示するなど、サイト上での擬似的な接客を実現するツールのこと。こうしたツールは通常、Webサイト上での商品購入や資料請求といった明確なゴール設定が可能な事業者が、サイト訪問者の成約率を高めるために活用することが多い。キリンのようにブランドサイトでも活用するのは珍しいケースだ。

 導入後は、まず顧客の理解に活用する。「マス広告で一律にメッセージを届けても効きにくくなっている。特に、クラフトビールやワインのような嗜好性の高いカテゴリーの商品は、セグメントを切ってそういった商品を好む層に効率的なマーケティングを仕掛けていく必要がある」(デジタルマーケティング部の宮入一将主査)。そこで、キリンは昨年、サイトのアクセス解析に注力した。ところが、サイトのアクセスデータだけでは嗜好性を十分に捉えきれないことが分かった。

 例えば、ワイン。キリンはメルシャンブランドでワインを展開しているが、サイトの訪問者の目的は多種多様だ。正しいワインの飲み方といったマナーを知りたい、お得なキャンペーン情報を見つけたい、そんな風に訪問者の目的は細分化している。このため、「ワインのサイトの訪問者が必ずしもワイン好きとは限らなかった」(宮入氏)。

 そこでプレイド(東京都品川区)が提供するWeb接客ツール「KARTE」を導入。サイト訪問者がコンテンツに触れた直後にアンケートを実施することで、より深く顧客を分析し、理解するためのデータを蓄積する。そのデータを活用して、さらに情報発信やコンテンツの改善に役立てることを目指す。

記事に接触した直後にアンケート

 最初に一番絞りのブランドサイトにこのツールを導入したのは、データとコンテンツが豊富にあるためだ。キリンは47都道府県ごとに異なるコンセプト、味を持つ「47都道府県の一番搾り」を展開している。各都道府県ごとの商品を紹介するページや、「一番PRESS」と称した、ビールをより楽しむための情報を提供するページなどを用意し、新たな情報コンテンツを随時、投下している。

Web接客ツールを導入したキリン「一番搾り」のブランドサイト
Web接客ツールを導入したキリン「一番搾り」のブランドサイト

 このように一番搾りのブランドサイトはコンテンツやマーケティング施策が豊富なことから、「データに基づいてコンテンツなどを改修するなど、PDCAを回しやすいと判断した」(宮入氏)。具体的には、一番搾り上にある記事の閲覧者にアンケートを実施して、記事の評価をしてもらう。「従来は、Webサイト上のどのタッチポイントが態度変容に影響を与えたのかを分析することは難しかった。記事の閲覧直後にアンケートを実施することで、より細かく記事の評価をしていく」(宮入氏)。

 そうして顧客理解を深めながら、徐々に他のブランドへも導入していく。その次の段階では、Web接客ツールを活用したマーケティング施策に取り組んでいく。段階的に施策を進める理由について宮入氏はこう説明する。「導入直後からポップアップで情報を出しすぎると、訪問者のサイト閲覧を阻害することになる。データをためて、適切な情報を出せるようにすべきだ」。

 例えば、一番搾りのサイト上で製法に関するコンテンツを高く評価した人には、ポップアップの画像でクラフトビールのサイトに誘導する。また、既に一部ではテストとして実施しているが、訪問者の嗜好性に合わせてDRINXで使えるクーポンを配信するなど、収益向上につなげる施策にも取り組んでいく。

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