スマートフォン向けアプリ上で、人工知能(AI)と対話をして、ハンバーガーが買える。
飲食店事業のユナイテッド&コレクティブ(東京都港区)は8月2日から、ヘルシーを売りにしたハンバーガー店「the 3rd Burger(ザ・サードバーガー)」のアークヒルズサウスタワー店で、こんな取り組みを始めた。AIによる対話型のシステム「チャットbot」を取り入れた国内でも珍しい事例だ。ユナイテッド&コレクティブは、チャットbotの導入で、事前注文比率の向上を狙う。
ユナイテッド&コレクティブは以前からアークヒルズサウスタワー店で、スマートフォン向けのアプリから事前注文を受け付けるサービスを提供してきた。顧客がオフィスなどからアプリで事前に商品を選んで注文すると、調理の完了後にアプリに通知が届く。店舗では受け取るだけで済むため、混雑時でもレジに並ぶ必要がない。
「行列ができるピークタイムにどれだけの人をさばけるかが、ファストフードにとっての最大の課題」(マーケティングコミュニケーション部の渡邉烈任部長)。つまり、事前注文比率を高められれば、その分、店舗で接客可能な人数も増える。それにより、厨房の稼働率が上がり、利益の増加が期待できるというわけだ。そこで、売り上げに占める事前注文の比率を20%まで高めることを目標に据えて、店舗でチラシを配布するなどして利用を促している。
こうした事前注文は、スマートフォン向けアプリ開発のShowcase Gig(東京都港区)が提供する、飲食店向けCRM(顧客関係管理)支援サービス「O:der」上で実現している。O:derは、飲食店が顧客に対して、O:derのスマートフォン向けアプリ上で来店でたまるスタンプカードを発行できるサービスだ。店舗側は、自店舗のスタンプカードを利用する顧客の性別や年齢、来店頻度、O:der経由での購買データなどを分析できる。そのデータから、例えば1カ月間来店していない顧客といった具合に対象者を絞り込んで、クーポンなどを配信できる。
一方、利用者側は、O:derが行きつけの店舗のスタンプカードを管理できるプラットフォームとなっている。O:der上で普段から利用する店舗のスタンプカードを取得して、来店時にスタンプをためることで、割り引きなど設定した特典を得られる。また、事前注文に対応した店舗であれば、アプリ上から商品を選んで決済をすることで、来店前に商品を注文できる。
「IBM Watson」も搭載
チャットbotは、そのO:derに新たに加わったマーケティング機能だ。事前注文の比率を高めるための施策として、ユナイテッド&コレクティブがいち早く取り入れた。O:der上で、the 3rd Burgerアークヒルズサウスタワー店の店舗情報ページを訪れると、トップの店舗イメージに重なる形で、同店舗の店長の顔写真とともに「こんにちは!」と、吹き出しが表示される。この箇所をタップすると、チャット風の画面が表示されて、擬似的に店長と対話ができる。

対話は基本的に選択肢を選ぶ形で行う。例えば、「注文する」「お店について」「本日のおすすめ」といった項目を選ぶと、対応する回答が表示される。また、「野菜を採りたいから来店したといった、目的を持って来店する顧客も多い」(渡邉氏)ことから、来店目的を尋ねて、「小腹がすいた」「野菜を採りたい」といった、利用目的として多い項目を回答として表示する。選んだ目的に合わせて、最適な商品をお薦めするといった形でも利用する。
フリーワードでのメッセージの送信も可能で、それに対する応対については、Showcase Gig側がアイ・ビー・エム(IBM)の対話型AI「IBM Watson」をシステムとして利用することで実現している。ただ、基本的には一般的な来店時の会話をシナリオのベースにした、選択型での対話で利用してもらう。
また、このチャットbotとの対話でお薦めした商品はすべて、アプリから注文できる。仕組みは先述した事前注文と同様だ。「(回転率の早さが求められる)ファストフードという業態は、顧客と店員がなかなかコミュニケーションを取りづらいため、顧客との関係を築きにくい」(渡邉氏)。そこを、チャットbotによる擬似的な対話によってサポートすることで、CRMの強化につなげる。今後は、対話の内容を顧客ごとにパーソナライズするため、過去の購買データに合わせて、お薦めする商品を最適化することも検討していく。