デザイン性と機能性とを兼ね備えた商品を手ごろな価格で提供している大手家具販売のイケア。28日午前の基調講演にはイケア・ジャパンでマルチチャネル変革プログラム責任者を務めるアーナー・アイドスクレーム氏が登壇し、同社が取り組む顧客体験の革新について語った。
イケアが数年前から取り組んできたのは、大型店舗のショールームに依存する購入持ち帰りの販売モデルからの脱却だ。そのため「店舗」「EC(電子商取引)」「新フォーマット」「補充」「サービス」の5つを重要な投資領域と決めて、大掛かりな改革を進めている。中でも重視しているのが、ECと「ピックアップ・アンド・オーダー・ポイント」と呼ぶ、ECで購入した商品の受け渡しに特化した新しい店舗フォーマットだという。
日本では2017年4月にECサイト「IKEAオンラインストア」を開設。直接店舗に行かないと購入できなかった状態から一歩前進した。日本のIKEAオンラインストアは、現時点では配送対応の地域が限られているが、徐々に全国に広げていくという。
店舗は現在8つあり、2015年には「ピックアップ・アンド・オーダー・ポイント」に相当する「IKEA Touchpoint熊本」も設けている。この熊本店は通常の店舗よりショールームスペースが小さいが、福岡店と連携。店舗やオンラインで注文した商品の受け取りが可能になっている。より多くの消費者が、より身近にイケアを知る機会を作ることが、この店舗設置の目的である。
顧客体験重視へシフト
イケアが進める改革は、消費者の変化に対応するものだ。日本では、少子高齢化、自動車保有人口の減少、可処分所得の減少などが進行しており、ビジネスにとってはマイナスの材料が増えている。自動車を持たない人は、郊外の店舗に出かけたり、店頭で商品を受け取ることが大変だ。
一方で、若い世代を中心に都市部への人口流入が増えており、スマートフォンを筆頭に、さまざまなテクノロジーを使うことが苦にならない人が増えている。店舗で商品を見てオンラインで購入するショールーミングや、オンラインで商品を選び店舗で購入するウェブルーミングのように、商品の購入プロセスで、テクノロジーを使うことはもはや当たり前になっている。さらに、生活スタイルの変化により、住環境を快適にするためにお金を使うことに積極的な消費者が増えていることはプラス材料となる。
そうした状況だからこそ、顧客に快適なショッピング体験を提供するためのプラットフォームとして、店舗やWebなど“マルチチャネル”を用意し、それらをシームレスに連携させることが不可欠になるわけだ。
イケアが描く「マルチチャネルリテーラー」という理想から言えば、日本はまだ最初の一歩を踏み出した段階。試行錯誤を繰り返し、より多くの消費者にリーチし、顧客中心で新しく楽しいショッピング体験の場を提供する取り組みを進めていく方針だ。