日経BP社主催の国内最大級のデジタルマーケティング関連イベント「D3 Week 2016」。「デジタル×データ×デザインの未来」をテーマに、東京・六本木ヒルズ(六本木アカデミーヒルズ)を会場に、7月29日までおよそ100の講演やパネルディスカッションを実施した。その中からデジタルマーケティング関連の講演などを選りすぐってお届けしていく。
「D3 Week 2016」最終日の29日の基調講演には、クレディセゾン代表取締役社長の林野宏氏が登壇した。林野氏は1965年に西武百貨店に入社。82年に西武クレジット(現クレディセゾン)に転籍、2000年に代表取締役社長に就任し現在に至る。

「クレジットカード業界は、まだまだ成長の余地がある」と林野氏は語る。その根拠として林野氏が挙げたのは、個人消費におけるキャッシュレス比率のグラフである。韓国はすでに85%がキャッシュレスとなっているが、日本はまだ17.3%。しかしながら、「つぶれた同業他社もたくさんある。我々も生き残っていくための手を打って行かざるを得ない」と林野氏。そこでクレディセゾンが中期経営ビジョンのテーマとして掲げているのが、「Neo Finance Company in Asia」だ。
「イノベーションの実現とこれまでのビジネスのモデルをチェンジしていくために、次の5つの戦略を用意している」と林野氏は語る。それは「カードビジネスモデル・チェンジへの挑戦」「オープン・イノベーションによる提携戦略」「ファイナンスビジネスを中核とした多角的提携」「広範なアジアエリアでの多様な事業展開」「グループ経営の改革」である。
カードビジネスのモデル・チェンジへの挑戦のため、クレディセゾンが強化を図っているのが、オープン・イノベーション戦略だ。「当社ではセゾン・ベンチャーズという子会社を設立し、シード・アーリー企業への出資をするほか、サイバーエージェント・ベンチャーズやGMOベンチャーパートナーズ、グリーベンチャーズなどのベンチャーファンドへも出資し、ベンチャーやスタートアップ企業が集まるイベントにも参加して、国内外のスタートアップやベンチャーと提携関係を構築している」と林野氏は説明する。
セゾンDMPが事業推進の要に
提携を推進する源となるのが、ビッグデータ基盤「セゾンDMP」だ。セゾンDMPは、カード会員やネット会員、アプリ会員の属性や行動履歴、カード利用履歴、リサーチ情報などを蓄積したDMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)。「これには4つの強みがある」と林野氏は続ける。第一が本人確認済みの正確な事実データであること。第二に国内外、オンライン・オフラインの幅広い購買履歴データが保有されていること、第三が全国の18歳~80歳超の消費性向の高い人が会員であること、第四がゴールド・プラチナ会員など、高所得者層や資産家、事業家を含む多様な会員層を有していることだ。しかも会員数は3500万人。「これだけの信頼度の高いデータを取得可能なのはクレジットカード会社だから」と林野氏は言う。これらのデータを活用した付加価値提供型のビジネスを検討していくというのである。
ビジネスモデル・チェンジ、さらにはイノベーションへの取り組みとして林野氏が紹介したのが、オープン・イノベーション型研究開発組織「DG Lab」である。デジタルガレージ、カカクコムとクレディセゾンの3社で設立された同組織では、「今後5年以内にブロックチェーンや人工知能、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)などの分野で次世代事業を創出し、既存のビジネスモデルを変革していきたい」と意気込む。
クレディセゾンがこのような新しいことに着手できるのは、「そういう風土が醸成されているから」と林野氏は説明する。同社では「言論の自由を保障します」「女性活躍度NO.1を目指す」「楽しくなければ仕事じゃない」「若者が会社の未来を創る」など、林野氏の考えが詰まった20条から成る「ヒューマニズムの風土創り」という行動指針を作成・掲示しているという。
「日本の企業の多くは、若手や女性にとって居心地の悪い風土のところも多い。しかしそれでは生き残れない」と、林野氏は女性が活躍でき、若い人たちが自由闊達に意見を述べられる、厳しくも優しい会社という風土・文化を醸成することの大事さを訴え、基調講演を締めくくった。