「アジアのデジタルマーケティング」の2回目は、商業施設や店舗が取り組むユニークなO2O施策について取り上げる。

 「行列ができる」ことは、飲食店の人気を示すバロメーターの1つである。しかし、今シンガポールでは、いかに待ち時間を少なくして顧客満足を高めるかに取り組む飲食店が増えている。そのカギとなるマーケティングツールが、スマートフォン行列アプリ「Tick Tok」だ。朝、昼、夜と外食する人も多い外食文化の国ならではとも言える。

 2012年にローンチしたTick Tokは、シンガポールの8000にも及ぶ飲食店の待ち時間をリアルタイムで表示し、70店以上のパートナー店の、空席情報や開店時間も表示する。

 正確な待ち時間を取得するために同社は、利用者からの情報、自社の行列監視チーム、そして店舗自体からの情報という3つの情報ソースを組み合せて、リアルタイムで待ち時間を算出している。最近リリースされた「Fast Forward Mode」は、現在の待ち時間以外に、未来の予測待ち時間を表示する機能を備えたサービスだ。顧客は過去の統計データから算出された、「予測待ち時間」で、ディナーやブランチのプランを立てることができる。

 このアプリを活用して、小規模店舗や単一店舗であってもO2O施策を気軽に展開することが可能となった。店舗情報を記載するだけでなく、ロケーション機能を活用し、近くにいるアプリ使用者にレストランの「インスタント割引クーポン」を表示することもできる。大企業だけでなく、ローカルの小規模店舗も、オープンに展開されるデジタルマーケティングツールを使い、O2Oが可能になる。そんな事例である。

タイ名物の渋滞を逆手に取る

 タイ人、特にバンコクなど都会の若者は自己顕示欲が強い。お金持ちに見られることがとても重要で、クルマは彼らのステータスシンボルである。大学を卒業すると真っ先に買おうとするのが高級車。その結果ローンに苦しむ若者がとても多い、そんな国なのである。この見栄っ張り気質に加え、貧弱な鉄道路線網、そして経済拡大と政府による購入支援によって、タイではクルマの数が急増した。それが、バンコクやチェンマイのみならず郊外でも渋滞を巻き起こしているのだが、ドライバーの急増と車滞在時間の長さを逆手にとって、O2Oを実施しているのが、タイで最大手のコーヒーショップ「カフェ・アマゾン」である。

顔認識で居眠り運転を検出するスマホアプリ「Drive Awake」のプロモーション動画

 カフェ・アマゾンは「Traveler’s Buddy」(車で旅する人の相棒)というコンセプトで知られ、タイ国内の650以上のガソリンスタンドに併設店を持つ。そのカフェ・アマゾンが、自動車のドライバーをターゲットにしたO2Oのプロモーションアプリを開発した。その名も「Drive Awake」という。コンセプトは、ドライバーの居眠り運転を減少させるというものだ。

 まずアプリを起動し、自分の“眠くない正常な状態”の顔を認識させる。そのスマホを運転席近くのフォルダーにつけておくと、ドライバーの目と顔の動きをトラッキングし、居眠りを始めた時点でアプリが認識。けたたましいアラームが鳴る。その後、「カフェで休憩しませんか?」と、近くのカフェ・アマゾンへ誘引するという仕掛けである。車社会タイの癒しの場所として、ブランドにもマッチし、かつユニークなO2Oである。

観光都市香港の3層O2O

 次に、各種O2Oを立体的に組み合わせて来場者を獲得している、香港のテーマパーク「オーシャンパーク」の事例を紹介する。エンターテインメント・教育・環境保護をコアバリューに掲げ、動物観察から乗り物まで、80以上のアトラクションがある巨大施設である。ターゲット顧客は中国、台湾、韓国、東南アジアからの観光者だ。これらの国で、旅行シーズンの前にマーケティングキャンペーンを行っている。

 旅行を計画する段階で、生活者にリーチするためには、オンライン旅行代理店、旅行ポータルサイト、Facebookでの旅行関連ページなどが媒体としていっそう重要になっている。旅行ポータル以外の顧客獲得ベースは、Facebook、LINE、Weibo、WeChat、Instagramなどのソーシャルメディアプラットフォームによるターゲティング機能である。

 ただ、「どのパートナーと組むかが難しい」と、オーシャンパークのマーケティング本部長、ペリー・チャン氏は言う。「成熟した人気ポータルは、結果は保障されるがコストが高すぎる。従って、我々はむしろ、今後成長するであろう発展途上ポータルとのパートナーシップを模索している」とのことで、潜在成長力を秘めた新しい媒体を常に探しているという。

 マーケティングツールとして特に最近は、バイラルビデオが重要との認識で、シーズンごとに開催されるイベントに合わせ、3~4通りのバイラルビデオが拡散される。チャン氏によると、「テーマパークのマーケティングに重要なのは、いかに『体験価値』を伝えるかであり、これにはバイラルビデオがベストなツール」だという。

 そんなオーシャンパークが、O2Oで大成功した施策が「Take You to the Poles」というエリアを対象にしたマーケティングである。Take You to the Polesは、アジア初の北極と南極をテーマにしたアトラクションが展開され、絶滅に瀕している動物たちも取り上げ、地球温暖化への警鐘と環境保護意識を高めるもの。

 キャンペーンはまずモバイルプラットフォーム上で展開された。ゲーミフィケーションを取り入れて、ページに埋め込まれた情報を見つけるとスコアがアップするという仕組みで、滞在時間を延ばすことと、深いエンゲージメント構築を図った。

テーマパークの外に設けた販促展示場所へのO2O施策としてスマホゲームを展開
テーマパークの外に設けた販促展示場所へのO2O施策としてスマホゲームを展開

 次に、パークの外で展開される、リアル販促展示場所へのO2Oを意識した組み立てが行われた。例えば参加者は、Take You to the Poles販促展示を行っているタイムズスクエア付近でゲームをすると、ダブル得点で特典がもらえるといった具合だ。同時に展開されたバイラルマーケティング施策で、参加者は「自分なりの、エコフレンドリー宣言」を作成し、ソーシャルメディアで拡散するよう誘導された。

 この結果、サイト滞在時間は従来の15倍になり、サイト訪問者の75%がゲームを行い、そのうち25%がより高いスコアを求めてリピートした。もちろん、リアルなTake You to the Poles体験を求めて来場者も大幅に増えたそうだ。ゲームを核にした360度コミュニケーションで、高い顧客獲得が実現した例である。

 「デジタルマーケティングは、マーケティングミックスの主軸になるので、さらにリソースを割く予定だ」と、チャン氏は語る。動画のバイラルマテリアルをもっと作り、バーチャル体験をリアル体験につなげて行こうとしている。今後、「オーシャンパーク内でショップやレストランへのO2Oも重要になるのでは?」と聞いたところ、「パーク内の通信環境を整え、リアルタイムデータに対応できるようになれば、是非取り組みたいと思って準備を進めている」とのことであった。

 国境を超えて広く来場促進を図るO2O、香港という域内で展開されるO2O、そして施設の場内でクロスセルを図るO2O。3つのレイヤーでO2Oを考えることは、日本の企業や観光施設でのデジタルマーケティングにとって、大いに参考になる視点だろう。