ヤッホーブルーイングの看板商品「よなよなエール」は、家庭で飲める手頃な本格エールビールとして多くのファンを持つ。1990年代の地ビールブームに乗って成功したが、その後はビール市場の縮小とともに売り上げも低迷。企業として窮地に立たされたが、新手のマーケティングで顧客の心をつかみ、現在では楽天市場でベストセラーになるほどの人気を誇る。

 そのヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏が、「Digital Marketing Week 2015」3日目に登壇。「『よなよなエール』の熱狂的ファンを生む戦略的くだらない戦略」と題した講演で、顧客から熱狂的に支持されるようになった経緯を明らかにした。

楽しんでもらうことが究極の顧客志向

 日本全国を席巻した地ビールブームが終焉した後、第3のビールなどに押されてビール市場は急速に縮小。倒産する事業者も多く、ヤッホーブルーイングもどん底に陥った。井手氏は「営業しても取り合ってもらえず、門前払いになることもあった。大手もやっている当たり前のマーケティングではダメ」と思い、新しい戦略作りに取り組んだ。

ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏
ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏

 打ち出したのは、「知的な変わり者」というコンセプトで、顧客の目と記憶に留まり、口コミを誘発させるという戦略だった。「そのためには、『業界初』『インパクト』『ユニーク』という3つの要素が同時に揃うことが条件」(井手氏)として、斬新な企画を次々と仕掛けた。

 例えば「夫婦で50年セット。通常価格750万円のところ300万円引き」という企画。現金一括払いで、夫婦の生存が確認できなくなった時点で権利消滅という条件付きだ。結局注文はなかったものの、「もうすぐ妻を説得できそうだから応募期間を延長してほしい」という電話がかかってくるなど、反響は予想以上に大きかったという。

 また、ローソンを通じて全国販売した商品では、ソーシャルメディアに「本当に売られているかどうか確かめてほしい」とあえて投稿。パッケージのカエルの絵がユニークだったことも功を奏し、多くのユーザーが反応して、「ビールを探して購入した」という写真付きの報告が全国から集まった。すると、今度は社内のスタッフがこれらの報告を地図上にまとめ、選挙戦のようなノリの写真を投稿するなど、企業と顧客が一体になって、ソーシャルメディア上での盛り上がりを継続する結果になった。
 
 井手氏はこれらの企画を「くだらない」と呼ぶが、実際には顧客から支持され、商品も売れている。その理由を、「一見して売り上げにつながらないような取り組みは、かえって顧客の心に入りやすく、熱狂的ファンを生み出す」と解説。そのうえで「ありふれた製品やPRに消費者は飽きているから、差別化は他社が真似を躊躇するくらい思い切りやる。直接は利益につながらないので勇気はいるが、常識にとらわれず、リスクを恐れないことが大切。売り上げは後から付いてくる」と語った。ヤッホーブルーイングを再び成長軌道に乗せた「戦略的くだらない戦略」の本質は、「ファンに楽しんでもらうことこそ究極の顧客志向」(井手氏)という姿勢にあるようだ。

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