より効率的な広告配信の実現のために、CMとデジタルを組み合わせるのが資生堂ジャパンだ。同社はデジタルを活用することで、CMの放送と効果測定を同時並行で行い、CMが届いていない層に対して動画広告を配信して補完する。昨年から、そんな取り組みを進めている。

CMの効果を3日で測定

 「CMの当たり方にムラが出ている」。資生堂ジャパンコミュニケーション統括部メディア統括グループの中條裕紀氏がそんな異変を感じ始めたのは2015年のこと。テレビ視聴データ計測事業のスイッチ・メディア・ラボ(東京都港区)の属性別視聴データを分析したところ、1人当たり8回の平均視聴回数を狙ったにもかかわらず、20回当たっている人と、1回しか当たっていない人、まったく届いていない人と偏りが見られた。20~30代の女性は特にその傾向が強かった。

 帰宅してもテレビをつけずに、スマホで友人とのコミュニケーションやネットショッピングを楽しむ。そんな習慣の人が増えているのではなかろうか。従来型のCM一辺倒の施策では、こうした層には情報を届けられない。とはいえ、闇雲にネット広告を配信しても、テレビを見ない層にだけ配信することは難しい。そこで、ネット調査を用いてCMへの初期の反応を分析し、ネット広告を投下すべき層を割り出すことで、効率的な広告配信を実現している。

資生堂ジャパンはCMの放送に合わせてリアルタイムに効果測定をしてリーチを補完
資生堂ジャパンはCMの放送に合わせてリアルタイムに効果測定をしてリーチを補完

 具体的にはCMの放送後、およそ3日後にネット調査サービスを使って広告認知のアンケートを実施する。「アンケートの回収速度が非常に早いため、すぐに母数が集まる」(中條氏)。このアンケート結果を基に、CMの広告認知の低い地域と年代を割り出す。

 例えば、関東や都市部は全国平均と比較して広告認知が低くなる傾向があるという。都心部ではインターネットリテラシーの高い層が相対的に多く、触れる媒体が多様化しているためだろう。また、年代ではやはり20代の広告認知が低下する傾向にあるという。

 この調査結果を基に、地域と年代でターゲットを絞り、Facebookで動画広告を配信し、CMが到達しない層を補完する。実名制のFacebookは、登録されている会員データがより精緻なため、精度が高く狙った層に広告を配信できることから優先的に活用している。

 きちんと想定通りに広告が到達したかどうかの分析も怠らない。資生堂は広告配信後に、調査会社のインテージ(東京都千代田区)の持つシングルソースパネルを活用して効果を検証する。シングルソースパネルは同一の調査対象者から同意を得た上で、テレビやスマホといった情報接触デバイスのデータと、オフラインでの購買履歴などのデータを取得し統合的に分析する調査のこと。

 効果検証ではパネルをテレビの視聴態度によって「ハイテレビ」「ミドルテレビ」「ローテレビ」「非視聴者」の4つに分け、Facebookの広告がどの層に当たったかを分析する。CMがハイテレビ、ミドルテレビに到達し、Facebook広告はローテレビと非視聴者に到達していれば、CM放送時のアンケート調査の正確性が分かるというわけだ。今後はテレビとネット広告をかけ合わせた視聴分析にも取り組んでいく。

 5月30日に改正個人情報保護法が施行された。これに合わせて放送分野でもガイドライン「放送受信者等の個人情報の保護に関する指針」が制定された。きちんと視聴者の許諾を得ることを条件に、テレビの視聴データをマーケティングに活用できる土壌が整ったことになる。

サプライヤー編:視聴データ連動の広告配信

 視聴データ利用のルールの整備が進む日本を好機と捉え、来年参入を計画しているのが、視聴データを活用した広告配信事業を手掛ける米フリーストリームメディアだ。既に日本に法人を設立して拠点を築いており、参入の準備を進めている。

 おそらく日本では耳に馴染みのない会社ではなかろうか。だが、米国ではテレビとデジタルをつなぐ同社のプラットフォーム「Samba TV」が急速な成長を遂げている。同社が開発した視聴データを取得するためのソフトウエアを搭載したテレビが「数千万台単位で出荷されている」とフリーストリームメディア(中央区)の脇山弘敏社長は明かす。クライアント企業には米アップルや米コカ・コーラ、米ウォルマートといったそうそうたる企業が名を連ねる。6月には米メディア大手のタイム・ワーナーや米大手広告代理店のインターパブリックグループなどが同社に出資するなど、放送側と広告代理店側の双方から耳目を集めている。

視聴データに基づく広告配信サービス「Samba TV」が来年上陸へ
視聴データに基づく広告配信サービス「Samba TV」が来年上陸へ

 フリーストリームメディアが展開するSamba TVは、一言で言えば、テレビ視聴データに基づいたネット広告配信の仕組みだ。リアルタイムで視聴データを取得してデータとして蓄積する。そのデータを画像認識技術で解析することで「どのチャンネルのどの番組の何フレーム目が表示されているかまで認識できる」(脇山氏)。米国では現時点で200チャンネル以上の視聴データを解析可能だという。さらにデータは1週間分蓄積するため、録画視聴にも対応している。これにより、どのテレビにどの番組が映っているかを精緻に把握できる。

 また、消費者向けのサービスとして、テレビと連動して動作するスマホ向けアプリ「Spotlight」を提供している。このアプリは見ている番組の出演者に関する情報などが手元で分かるもので、テレビガイドとして利用できる。こうしたサービスを提供するなどして「約2億台のスマートデバイスに関するデータベースも所有している」(脇山氏)。

 もうお分かりだろう。これらのデータを組み合わせることで、完全一致ではないものの、どのテレビとスマートデバイスが同じ家庭で使われているのかを推測できるのだ。そして視聴データに基づいて、一緒に使われているであろうスマートデバイスに広告を配信する。

 マーケティングへの活用法は複数ある。まず、CMとリアルタイムで連動させる方法が1つ。例えば、自動車メーカーは新車のCMを見ている視聴者のスマートデバイスに対して、その新車の試乗予約を促す広告を配信できる。また、リターゲティング広告の配信にも活用できる。CMで広告を閲覧してもらい、後日にお得に購入できるキャンペーンをネット広告で案内する。あるいは、位置情報データを使うことで、CMを見た人が店舗の近くに来た場合にクーポンが取得できる広告を配信し、来店を促すこともできる。