パソコンで回答することを前提に、縦・横に多数の項目と選択肢を入れたマトリクス型の設問は、スマホからは回答しづらい。

図7 パソコンを前提としたマトリクス型の質問は、スマホ画面(左下)では答えにくい
図7 パソコンを前提としたマトリクス型の質問は、スマホ画面(左下)では答えにくい

 マクロミルも楽天リサーチも、レスポンシブWebデザイン型でスマホ最適化画面を表示しているが、図7のように選択肢が20個もあれば、横スクロールする必要が出てくる。この場合、選択肢を厳選して数を絞るか、あるいは縦・横を入れ替えて縦スクロールにすることで回答負荷を軽減するような配慮、工夫が求められる。

 「調査スタート前の画面確認の際、パソコンからではなくスマホからアクセスして、ぜひモニターの立場でテスト回答してみてほしい」(マクロミル総研の村上氏)。

図8 回答時間はスマホが1.3倍
図8 回答時間はスマホが1.3倍
図9 質問数が多すぎると精度が下がる
図9 質問数が多すぎると精度が下がる

 

 設問数も絞った方がいい。マクロミルの自主調査で、択一、複数回答、自由記入、複数回答のマトリクス型などさまざまな設問スタイルから成る調査の回答時間を測定したところ、パソコン回答者は9分1秒、スマホ回答者は11分55秒で、スマホの方が約1.3倍時間がかかっていた(図8)。

 特に複数回答のマトリクス型設問で、パソコンよりも時間を要していた。また質問数については、20問を超えてくると回答負荷を感じて1問当たりの回答所要時間が短くなる(図9)。つまり設問数が増えるほど、質問文や選択肢をじっくり読まずに適当な回答をする人が出てくる。回答に時間がかかるスマホは、集中力が切れるのも早いと思っておいた方がよさそうだ。

 こうした端末の特性を踏まえてマクロミルでは、スマホに配慮した調査票設計のためのガイドライン10項目をまとめている(図10)。

図10 スマホに配慮した調査票設計の注意事項
図10 スマホに配慮した調査票設計の注意事項

 マクロミル総研の村上氏は、「質問文はスマホの画面の幅を取ってしまわないよう、シンプルな表現が望ましい」とアドバイスする。「※自分で購入していない商品も含みます」など、迷いや誤解が生じる余地がないよう、注釈を長々と書き連ねている質問文をたまに見かけるが、スマホ回答には不向きだ。実際のところ「簡略化しても回答にほぼ変化はない」(村上氏)という。

 スマホ回答者に負荷がかかるということは、スマホ回答比率が高い若者に負荷がかかることと同義だ。スマホ仕様にダウンサイジングしなければ、若者のリサーチ離れを招きかねない。1番目の課題である若年層の協力率と通底するテーマなのだ。

花嫁1000人を組織する「ゼクシィ」

 「質問はシンプルに、設問数を絞って」という抗いがたいトレンドに対し、「聞きたいことも聞けないリサーチなんて」と嘆き節の一つも聞こえてきそうだ。

 そんな場合には、結婚情報誌・サイト「ゼクシィ」の取り組みが参考になる。同誌を企画制作するリクルートマーケティングパートナーズでは、1994年から続く「ゼクシィ結婚トレンド調査」や、2005年から始まった「新生活準備調査」など定番の調査を長年継続している。ゼクシィ読者やWeb会員を対象に調査を実施し、挙式・披露宴の総額や招待客数、親の援助の有無・額、披露宴の演出内容などを明らかにするもので、景気とひも付けて語られることも多く、重要な指標となっている。

 こちらの調査は定点観測によって結婚マーケットのトレンドを把握する定量調査で、例えば披露宴を盛り上げるためのノウハウや費用を抑えるための工夫、面白エピソードなどはとても聞ききれない。では、雑誌の読み物企画として面白く、かつ役 に立つこれらの声はどのように集めているのか。

 ゼクシィでは、挙式を終えた新婚さんを対象に任期1年の「ゼクシィ花嫁1000人委員会」を組織して、先輩花嫁として自身の体験やアイデアを伝えたいメンバーを募集している。このメンバーから、ノウハウやエピソードをしっかり聞き出して、誌面に反映するのだ。

 「ゼクシィ」編集長の平山彩子氏は、「アンケートの設問数は40問ほどで回答時間は平均80分を要するが、月数回実施して毎回100人以上のご協力をいただいている」と語る。図11の設問例のように、具体的な回答例も出しているため質問文は長い。それでもパソコンから腰を据えて回答するため問題にならず、この水準の回答が求められているという編集趣旨が明確に伝わるので、面白いエピソードが集まり、誌面が充実する好循環を作り出している。

図11 ゼクシィのアンケート調査の設問例
図11 ゼクシィのアンケート調査の設問例

 挙式直後の新婚さんは自身の経験を伝えたい意欲が非常に高く、また誌面に自分のコメントが載ることがモチベーションになっている点で、やや特殊性はある。それでも、時間を忘れて回答したくなるような、その意欲を引き出す設問作りには学ぶ ところが多い。

 ゼクシィ花嫁1000人委員会ではWebアンケートのみならず、座談会も実施していて、ディープな定性調査の場として機能している。一般企業であれば、コミュニティサイトを活用したMROCやアンバサダー施策などが、より深い生の声を聞く場として該当するだろう。

 ネットリサーチ=定量調査と考えがちだが、例えば1次調査で自社商品から競合にスイッチした人を抽出して、そのモニターに2次調査やグループインタビューを実施すれば、貴重な定性調査データが得られる。若年層モニターやスマホ回答という課題はあるが、こうしたリアルでは探しづらい特定層をスピーディーに抽出できるのはネットリサーチならではの魅力である。サービスの利点を活用し、また自社商品のファンを組織することで、つかみにくくなった感のある若者のインサイトを発掘することはまだまだ可能なはずだ。

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