マーケティングリサーチが紙からネットに切り替わったことで、企業のマーケターは調査をより手軽にスピーディーに、かつ安価で実施できるようになった。利用機会が多くなっているだけに、調査を手がける機会のあるマーケターは、ネットリサーチが現状抱える課題についてもしっかり把握しておきたい。

若者モニターが足りない

 課題は大きく2つある。1つ目は、若年層のモニター枯渇問題だ。

 市場調査会社の業界団体、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が会員社に実施した調査で、性・年代別の自社モニター構成比を尋ねたところ、自社モニターを持つ21社から回答があり、合算すると図3のような状況だった。

図3 アンケートモニターの性・年代別構成比(21社分合算)
図3 アンケートモニターの性・年代別構成比(21社分合算)

 これまでネットリサーチといえばモニターが少ないシニア層向けの調査はあまり向かないというイメージが強かった。今も70歳以上の男性、60歳以上の女性はモニターが手薄だが、それと同等に10~20代のモニター登録者が少なく、貴重な存在になっている。最も層が厚い30代女性、および40代女性がそれぞれ17%台で合計で3分の1を超える一方、20代男性は5.2%にとどまっていて、60代男性(6.12%)をも下回っている。

 この結果、何が起こるか。マーケティングリサーチのテーマの多くは商品・サービスの利用動向や使い勝手、感想、イメージなどを問うもので、シニア限定などの調査を除いて20代が調査対象から外れることはあまりない。したがってモニター1人に届く調査依頼件数が他世代よりも多くなり、その分、回答疲れを起こしやすく、協力率の低下を招いてしまう。構成比が少ない上に協力率も下がってしまう状況は、リサーチ会社としても悩みの種だ。

 “若者のモニター離れ”の要因はいくつか考えられる。今から10年ほど前は、ネットで小遣い稼ぎといえばネットリサーチのモニターになることが定番だった。現在は例えばアライドアーキテクツの「モニプラ」のように、ブロガーやSNS利用者のモニター向けにプレゼントキャンペーンを展開するプラットフォームが盛況で、ポイントをためてギフト券などに交換できる方法が多様化している。少子化で人口そのものが減っている上に競合が増えているのだ。

 また、調査依頼はメールで配信しているが、コミュニケーションツールがメールからLINEに移行したことで、若者のメールチェックの頻度が落ちていることも、反応の悪化に影響している可能性がある。JMRAでは、若年層のモニター枯渇問題を研究テーマに挙げていて、昨年度は若年層モニターの実態把握のため、モニター登録に至る経緯や、謝礼、回答負荷に対する意識、アンケートに参加するモチベーションなどについて調査を行っている。これを基に、モニター登録向上のための方策や課題を詰めていく予定だ。

 若者モニターの開拓は、リサーチ市場の成長のためにも業界の努力が求められるところだが、リサーチを依頼する企業側としても、若者の調査疲れの軽減に配慮することは、精度の高い回答を得るために取り組む意義がある。

 例えば主に30代の顧客が中心の商品についてアンケートする場合でも、20~40代の男女各100人ずつ計600人という具合にモニター数を均等に割り付けて依頼することがよくある。だが「必ずしも均等割で集める必要がないケースも見受けられる」とマクロミル総合研究所の村上智章氏は指摘する。特に、均等に集めて後から人口比に合わせて20代を割り引き調整するくらいなら、必要数を指定して集めた方が、スピード、コスト、クオリティの面でもプラスになる。

紙→PCよりスマホシフトは衝撃大

 課題の2つ目は、回答端末のスマートフォンシフトだ。マクロミルが、端末制限をかけずに実施したアンケート調査で端末構成を調べると、スマホ比率は2014年6月の23.5%から2015年6月には31.8%と着々と増加している(図4)。そしてこれは世代差が大きく、昨年6月時点で10代はスマホが72.2%、20代も56.0%に達しており、特に女性が牽引している(図5)。

図4 デバイス制限のないアンケートではスマホ回答比が増加
図4 デバイス制限のないアンケートではスマホ回答比が増加
図5 若者ほどスマホ回答比率が高い
図5 若者ほどスマホ回答比率が高い

 スマホ回答に移行した人と、まだパソコンから回答している人とではタイプが違うのではないか──。楽天リサーチがその疑問を自社調査で明らかにしている。

 「新しい情報や流行には敏感な方だ」といった情報感度に関する設問を3問、「よく当てはまる」「やや当てはまる」「どちらとも言えない」…という5段階自己評価で回答してもらったところ、スマホ回答者は1問以上「当てはまる」人が65%だったのに対し、パソコン回答者は54%にとどまった(図6)。同社リサーチ統括部部長の植村史明氏は、「スマホ回答者の方が情報感度が高い。例えばカフェについて、スマホ回答者は、認知店舗数や利用経験店舗数が多いという結果も出ている」と説明する。

図6 スマホ回答者を排除すればサンプルが偏る
図6 スマホ回答者を排除すればサンプルが偏る

 パソコン回答限定の縛りは排除して、スマホからも回答してもらうようにすることは、調査の偏りを排除するために欠かせなくなった。だがスマホ回答を解禁するだけでは問題は解決しない。

 「実は、郵送調査など紙の調査からネットリサーチへ移行したときよりも、パソコンからスマホへの移行の方が、設問設計上は変化が大きい」と語るのは、トランスコスモス・アナリティクス副社長、マクロミル総研所長の萩原雅之氏だ。

 紙の調査でもパソコン回答の調査でも、A4サイズに収まることを目安に設問を組むため設問作りの面ではほとんど変化はない。郵送の重量を気にする必要がない分、ネットリサーチは設問数が増えていく傾向があった。そこへ画面サイズが物理的に 異なるスマホへのシフトが起こり、設計も設問数も根本的に見直す必要に迫られている。