少子化と、スマートフォンやSNSの普及の影響を受け、縮小気味の文具業界。業界大手の一角を占めるぺんてる(東京都中央区)はそうした逆境にあっても、デジタルツールを味方につけ、アナログ商品の文房具の売り上げを伸ばしている。
現在、品薄が続く文具に同社のシャープペン「オレンズネロ」がある。ノック1回で芯がなくなるまで出続ける「自動芯出し機構」を搭載し、価格は3000円(税抜き)。今年2月に発売を始めたが、入荷するとすぐに売り切れ、品薄は今も解消していない。

この商品は2014年2月発売の「オレンズ」がシリーズ第一弾。芯が減るのに合わせて先端パイプがスライドする仕組みで、芯折れを軽減したことがウリだった。
実は人気YouTuber、はじめしゃちょーがヒットの火付け役だった。3年前にオレンズを紹介して10代の生徒・学生に広く認知され、ぺんてるは「感謝状」を進呈。ぺんてる提供のはじめしゃちょー動画も公開してさらに認知を広げた。そのはじめしゃちょーは今回、オレンズネロも発売時に紹介し、品薄になるほどの人気の一端を担った格好だ。
スマホ併用でマーカーの価値向上

試験前、教科書の重要キーワードに蛍光マーカーを引いて緑や赤のシートをかぶせながら暗記する──。そんなシーンがスマホアプリの活用で変化している。
ぺんてるの暗記用スマホアプリ「AnkiSnap」をインストールし、対応マーカーを使ったページをアプリのカメラで撮影すると、マーキング部分にマスクが掛かる。画面上でタップして表示・非表示を切り替えながら暗記学習ができる。これまでオレンジ色しか認識しなかったが、今夏発売の新商品から4色対応になるため、人物はピンク、年号は青などマーカーを色別に引き分け、ピンク(人物)だけマスクを残して覚えるといった使い方もできる。アナログのマーカーにデジタルのアプリを組み合わせ、資料を持ち運びせずスマホ一つで効率的な学習を可能にし、マーカーの付加価値を高めている。
デジタル活用は販促にも及ぶ。書く(描く)楽しさを訴求するために開発中のVR(仮想現実)ソリューション「RAKUGAKI VR」がそれだ。

ぺんてるは壁やイスに落書きできる「RAKUGAKI Cafe」や、家の形をした立体キャンバスに落書きできる「RAKUGAKI HOUSE」などをイベントで展開してきたが、この体験をVR空間に広げる。現状のβ版では、ヘッドマウントディスプレイを装着してコントローラーを持つと、野山と空が広がるVR空間にクレヨンを並べてお絵かきができる。年内に正式版をリリースし、文具店での販促やイベントでの利用を検討している。典型的なアナログ商品の利便性と購入意欲の向上に、さまざまなデジタルシステムを活用していく考えだ。