企業が直面する危機のうち、特に直近2年間で増えているのは、「従業員によるSNS等への不適切な書き込み」「労務上のトラブル(過労死、不当解雇等)」「製品・サービスの表示偽装」など──。
電通パブリックリレーションズ内の研究組織「企業広報戦略研究所」と東京大学総合防災情報研究センターが今春、東証1部上場企業と国内に拠点を持つ外資系企業約3000社にアンケート調査をしたところ、増えている企業リスクの傾向が明らかになった(回答数392社)。
過去に直面した危機として回答が多かった1位「事故・火災の発生」、2位「欠陥商品の回収」、そして3位「個人情報・顧客情報の漏えい」は、直近2年間でもトップ3を占め、頻発していることが分かる。
一方、冒頭に挙げた3つの危機は、過去に直面したランキングでは、SNSの不適切投稿が9位、労務トラブルが7位、表示偽装が12位と決して上位ではない。それが直近2年間では順に4~6位を占めた。

「評判・風評の把握」は20%未満
しかし、実際にはSNSリスクへの対策は十分とは言い難い。「ソーシャルメディア用の運用ガイドラインが整備されている」との回答が33.4%、「ソーシャルメディア上の評判・風評を把握する仕組みを導入している」が19.9%と、未着手の企業がまだまだ多いのが現状だ。
評判・風評を把握する仕組みとしては、例えばホットリンク(東京都千代田区)が提供する「e-mining」のような監視ツールがある。これはいわゆる“バイトテロ”のような従業員の不適切投稿をいち早く感知する他、職場に対する不満のつぶやきや、不正やモラルに反する行為を告発する掲示板投稿なども検出できる。
違法残業で幹部が書類送検されたABCマートは、過酷な労働環境について4~5年前から掲示板に書き込みが続いていた。異物混入で一時発売中止になった「ペヤングソース焼きそば」も、製造元工場の不衛生な環境について事件以前に掲示板に投稿があった。こうした内部からと思われる不満の声や告発を監視ツールで把握できていれば、労務上のトラブルや表示偽装といった増加傾向にある問題も、解決に向けて対応に動くことができるだろう。
同調査では、危機管理力を「予見力」「回避力」「被害軽減力」「再発防止力」「リーダーシップ力」の5つに分類し、それぞれの力を問う設問を用意して傾向を探った。結果、特にこれまで危機に直面しなかった企業が無回答だった「再発防止力」を除いて、最も得点が低かったのが「予見力」だった。「評判・風評を把握する仕組みの導入」の有無も、予見力を問う設問である。
内部からと思われる不満の声を察知(=予見)し、封殺せず解決に向けて動くことが、危機回避の最善策になる。